TCFD対応の「気温スコア」

――2015年にグローバル・コンパクトを離れました。現在はESG情報プロバイダーの英アラベスク・グループの会長をしています。

ケル グローバル・コンパクトが起点となり発足した金融関係のイニシアティブにPRIやSSEがあると説明しましたが、投資家に企業のESG情報を伝えることがより重要になってきました。アラベスクは、企業の公開情報だけでなくNGOの評価やメディアの記事、SNSなどから情報を収集し、AIを使って企業のESGを評価するサービス「S-Ray」を投資家に提供しています。

 企業のESGの取り組みを採点する「ESGスコア」、グローバル・コンパクトの10原則で企業を採点する「GCスコア」を提供しています。

 2019年9月には新たに「気温スコア」を開発しました。企業のCO2削減の取り組みを評価するもので、産業革命以前からの気温上昇を「1.5℃」「2℃」「2.7℃」「2.7℃超過」「3℃」の5つに分けて、どのシナリオに沿った経営をしているかを評価します。

 企業の温室効果ガス排出量のスコープ1と2の開示情報を活用しています。開示が不十分な企業は「3℃」に格付けします。開示している企業は、「売上高当たりのCO2排出原単位が2030年と2050年の何℃目標に沿うか」「長期的な削減トレンドが1.5℃目標に沿うか」「SBT(科学に基づく削減目標)認定か」「スコープ3を開示しているか」の4点から格付けします。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に基づく情報開示をしているかを投資家が知るのにも役立ちます。下の表は日本企業のランキングです。

■ アラベスクの「気温スコア」の日本企業ランキング (2020年2月時)
■ アラベスクの「気温スコア」の日本企業ランキング (2020年2月時)
注:「2030年」「2050年」は売上高当たりのCO2排出原単位が2030年と2050年の何℃目標に沿うか、「トレンド」は削減トレンドが1.5℃目標(2060年までにネットゼロ)に沿うかを示した。N/Aは沿わないかデータが不十分
(出所:アラベスク・グループの資料を基に作成)
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 この気温スコアの最新情報をS-Rayの顧客である投資家に配信しています。世界の金融機関が気温スコアをベースにしたファンドや指数の開発を進めています。

――人権など社会面の評価はどのように進めていますか。また、世界のESG評価はいずれ標準化しますか。

ケル 投資家は数量化されたデータを好みます。環境はCO2排出量や水消費量、資源効率性とデジタル化しやすいですが、社会面は定量化が難しいですね。特に人権は白か黒かの問題ではないため継続的に見ないといけませんので、なかなか線的なランキングがしにくい。

 我々は指導原則に基づいて企業が人権配慮をしているかを評価する「UNGPスコア」を開発中です。人権に関するデータ収集は大きな前進があり、人権方針はあるか、実際にどんな人権配慮の取り組みをしているか、成果を上げているかを評価できるようになりました。近い将来、発表できる予定です。

 世界からは様々なESG評価が出てきていますが、私はここ5~7年で標準化されるとは思っていません。

――持続可能性の課題で、いま一番ホットで関心を持っているテーマは。

ケル 脱炭素と排出量削減です。世界が解決を必要としている喫緊の課題です。解決にはイノベーションとテクノロジーが求められます。これからは排出したCO2より多くのCO2を除去する「カーボンマイナス」が重要です。カーボンマイナスは「未来への通貨」、企業価値を向上させる切り札になると考えています。

国連グローバル・コンパクト 創設メンバー、元事務局長/英アラベスク・グループ会長 ゲオルグ・ケル氏<br><span class="fontSizeS">(写真:中島 正之)</span>
国連グローバル・コンパクト 創設メンバー、元事務局長/英アラベスク・グループ会長 ゲオルグ・ケル氏
(写真:中島 正之)