冨田 秀実/ロイドレジスタージャパン取締役

商品の調達先で起きた問題を「関係ない」という言い訳はもう通用しない。環境や労働、人権問題にサプライチェーンで対応することが成長の条件になる。

 原材料や部品などの調達先(サプライヤー)が、環境や労働安全衛生、人権などに配慮しているか。今、企業にとってサプライチェーンを取りまく問題への対応が重要な経営課題に浮上している。

 従来、企業の調達で重視されてきたのは、「Q(品質)」「C(コスト)」「D(納期)」である。だが最近は、QCDという経済的側面だけを意識するのではなく、自社のみならずサプライチェーン全体で社会的責任を果たすような調達が求められるようになっている。こうした概念は、「持続可能な調達」や「サステナブル調達」と呼ばれる。「責任ある調達」「CSR調達」「エシカル調達」と言われるものもほぼ同義である。

 社会的責任をないがしろにした経済のみを優先する調達行為は、短期的には一見問題なくとも、社会の持続可能性に反する。将来の調達がままならないばかりか企業活動そのものが成り立たなくなる。なぜ今、「持続可能な調達」が必要なのか。今回から2回にわたって解説していく。

ビル崩落事故の衝撃

 持続可能な調達について語る上で外せない事件がある。

 今から遡ること5年前の2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカ近郊にあった商業ビル「ラナ・プラザ」が崩落し、1000人を超える人命が一瞬にして失われた。ニュースで大きく報じられたので覚えている方も多いだろう。

バングラデシュの首都ダッカ近郊で崩落事故を起こした商業ビル「ラナ・プラザ」。1000人を超える犠牲者を出し、サプライチェーンの問題を企業に突き付けた
写真:ロイター/アフロ
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 このビルは違法な増築を繰り返したのみならず、建物にはヒビが入っており、危険性が指摘されていた。にもかかわらず、経営者は労働者をビルに入れ、操業を続けたため大惨事につながってしまった。

 日本での報道や関心は一過性のものだったが、欧米では非常に注目され、事件後も長い期間にわたって関連の報道が続いていた。注目を浴びた理由は、被害者の多さもさることながら、がれきの中に先進国の有名なアパレル企業のロゴがついた布切れが散乱していたからだ。このビルには、イタリアのベネトンをはじめとする世界の有名アパレルブランドの商品を受託生産する縫製工場が入居していた。

 先進国の多くの人たちが1〜2着は持っているような商品のブランドだけに、作る過程でこれだけ多くの人命が失われたとなれば、この工場を下請けとして使っていた企業は厳しい批判にさらされる。いつ事故が起きてもおかしくない状況だったのに何もしていなかったのかと。

 このようなサプライチェーンに関わる問題は、メディアやNGOの報告書に名前が載る企業の社内で起こっているわけではない。しかし、サプライヤーで起こっている問題は、そこから商品を調達する企業にも責任が伴うとみなされる。これは、現代のビジネスでは常識になりつつある。資本関係がないサプライヤーの問題だから関係ないという言い訳は、もはや時代遅れの過去の論理であり、通用しないのである。