企業が恐れる「評判リスク」

 バングラデシュでは、ラナ・プラザの崩落事故だけでなく、相前後して別の縫製工場で火災により多数の労働者が亡くなる事故も複数発生した。こうした事態を受け、欧州のアパレル企業が中心となって、下請け工場の労働環境改善のために、「バングラデシュにおける火災予防及び建設物の安全に関する協定」(通称:アコード)を結んだ。米国系企業は、「バングラデシュ労働者の安全のための同盟」(通称:アライアンス)を形成している。

 これらのイニシアチブには、世界の有名アパレルブランドのほぼすべての企業が参加。下請け工場の検査を実施し、一部の工場に対しては閉鎖や改修などの措置を講じた。米ウォルト・ディズニーに至っては、こうした対応をもってしてもリスクの回避が困難と判断。同社のライセンス商品の生産過程に適用される国際労働基準(ILS)プログラムで、バングラデシュの工場からの調達を禁止している。

 こうした動きは、「評判リスク」を意識しての対応である。企業にとって、サプライヤーの事故や問題によりブランドが毀損されることは、商品の調達が途絶える「調達リスク」以上に恐ろしいことなのだ。

 今は、消費者からは直接見えない、商品の生産過程を含めたサプライチェーンで適切な社会的責任を果たしているのかが企業に問われる時代である。ラナ・プラザのような大きな事故が起きなくとも、もし人権侵害を疑われているサプライヤーから商品の供給を受けていたとの指摘を受ければ、企業のブランドイメージに悪影響が及ぶ。その結果、消費者がその企業の商品を購入するのを躊躇するばかりか、極端な場合、大規模な不買運動に発展する可能性もあるだろう。

 ラナ・プラザの例は歴史に残る大事件といえるが、メディアやNGOの指摘を受け、大きな企業リスクの問題に発展した事例は数多い。

 持続可能な調達の契機として常に引き合いに出されるのが、米国の大手スポーツ用品メーカーである米ナイキの「搾取工場(Sweat Shop)」問題である。1990年代後半に、サッカーボールの生産での児童労働や、アパレル商品の生産現場での劣悪な労働環境を批判され、全米の大学をはじめとした不買運動が勃発した事件だ。

 例えば、売価250ドルのスポーツ靴を作るために労働者に払われている賃金は83セント(売価の0.3%)との指摘などもあり、労働者を搾取しているという印象を決定づけた。

 これらの商品は発展途上国のサプライヤーに生産を委託していたため、ナイキは当初、サプライヤー側の責任として対応しない方針を示したが、それが火に油をそそぐこととなり、不買運動がさらに拡大。最終的に同社は責任を認め、対応に乗り出したと伝えられている。

 同様の事件が、ツイッターやフェイスブックなどSNSが普及した現在に起きれば、その影響はさらに大きくなることは想像に難くない。

 ナイキの事件を発端に、主なアパレルブランドは生産委託工場の管理を強化してきたはずだった。が、ラナ・プラザの事件は、その努力を否定しかねない衝撃を及ぼすこととなったのである。