東京五輪で日本に厳しい視線

 2020年に東京五輪を控えていることからも、日本のサプライチェーンの問題に海外から厳しい視線が向けられている。オリンピック・パラリンピックやサッカーのワールドカップのような、いわゆるメガ・スポーツ・イベントが開催される際には、スタジアムなどの建設やスポーツ用品などの生産に関わるサプライチェーンの人権問題に注目が集まる。

 2008年に開催された北京五輪では、スタジアムの建設で多数の死者が報告された。2022年にカタールで開催されるワールドカップのスタジアムの建設でも、劣悪な労働環境や、死者を含む労働災害の多発、賃金の未払いが国際機関により既に指摘されている。

 日本でも、残念ながら、新国立競技場の建設を請け負う大手ゼネコンの下請け企業で過労自殺により人命が失われてしまった。

 サプライチェーンの問題をさらに複雑にしているのが、これまで事例を紹介してきたサプライヤーの労働者の人権問題に限られないことである。労働者の人権侵害同様、数多く指摘されているのは、地域住民や、もともと住んでいた先住民族に対する人権侵害である。

 鉱山や石油・石炭・天然ガス田の開発には、地域の大規模な開発を伴うことが多く、地域住民や先住民族との衝突が起こりやすい。開発には住民との協議や住民の移住が必要になる場合が多いが、十分な協議や保証がされないまま政府の認可の下に強制移住が実施されるなど、大きな問題に発展しがちである。

 例えば、ナイジェリアの油田開発では、開発に反対する地域住民のリーダーの人権活動家が処刑されるといった事件が起きている。地域住民との軋轢は、近年、経済発展著しいミャンマーの工業団地の開発でも生じている。

 地域住民や先住民族の問題に配慮せずに、地域のサプライヤーからモノを調達するのは当然のことながらリスクを伴う。

 原材料の調達でも問題が指摘されている。例えば、紙の原料や建材などに用いられる木材、パーム油の原料となる油ヤシのプランテーションのために森林が伐採され、地域住民が強制的に退去させられている。

 地域住民への影響という観点からは、化学物質による環境汚染も深刻である。国際NGOのグリーンピースは、大手アパレル企業の生産委託工場で発生している排水による環境汚染を指摘し、企業に改善を迫る「Detox(デトックス)キャンペーン」を展開中だ。中国のNGOは、大手エレクトロニクス企業のサプライチェーンを調査し、法令で定められる排水基準の違反を指摘するなどサプライヤーの管理状況を評価し、ランキングを公開している。

 さらに、携帯電話などのエレクトロニクス機器のサプライチェーンで、企業が紛争に加担し、地域住民の人権侵害を引き起こしているという。一瞬耳を疑うような指摘は、欧州を中心に1990代後半から既にあった。

 エレクトロニクス機器には欠かせないコンデンサーに用いられるレアメタル(希少金属)のタンタルは、コンゴ民主共和国(DRC)で多く産出される。この鉱物が、長期にわたるDRCの内戦を引き起こしている武装勢力の資金源となっているという。この内戦は100万人以上の犠牲者を出し、史上最悪の内戦といわれているのと同時に最大級の人権侵害の一つに数えられる。

 米国では、武装勢力への資金源を根絶するべく、金融規制改革法(ドッド・フランク法)が施行された。タンタル、金、スズ、タングステンを「紛争鉱物」に指定し、これらを使用している上場企業に対して、紛争に加担していないかどうかを調査して報告するよう義務付けている。