女性の活躍が投資呼び込む

 投資家にESG評価情報を提供するMSCIは、「労働マネジメント」や「人的資本開発」を重要な評価項目にしている。従業員1人当たりの売上高、女性管理職比率、社員の満足度、離職率など、業績への影響が大きい課題に対する取り組みを企業の格付けに反映する。

 MSCIが作成したインデックス(株価指数)の「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」と「MSCI日本株女性活躍指数」は、世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用している。

 MSCIの柴野幸恵シニア・アソシエイトは、「残業時間の多さは社員の身体や精神面に負の影響を及ぼすだけでなく機会の損失になる。自己啓発や社外人脈の構築など、仕事の成果に好影響をもたらす活動に時間を取りづらくなる」と話す。

 人手不足への対応として、多様な人材が働ける環境を整えることが欠かせない。中でも女性は潜在的な労働力として期待が高い。育児や家事との両立が壁になり働きたくても働けない女性は全国に300万人以上いる。「多様性に欠ける組織運営をしていると女性は入りたがらない。そういう点でも長時間労働の影響は大きい」(MSCIの内誠一郎マネージング・ディレクター)。

 女性活躍を推進するなど多様性のある企業はより幅広い人材の中から社員を採用できる。MSCI日本株女性活躍指数は、人手不足でも成長が期待できるそうした企業を構成銘柄に組み込んでいる。野村アセットマネジメントは、この指数をベースにしたETF(上場投資信託)商品を2018年5月に東京証券取引所に上場した。運用資産残高はまだ30億円を超えたところだが、リターンはTOPIX(東証株価指数)を上回る。

 野村アセットマネジメント投資信託営業部ETFグループの奥山修グループ・リーダーは、「労働力人口が少なくなると、雇用形態が変化してくる。中途採用市場で優秀な人材をどれだけ採れるかは、女性活躍の推進度合いでも差が出る可能性がある。人材の多様性を備えている企業は、優秀な人材の採用・維持など人事戦略上、有利になるのではないか」とみる。

 GPIFが採用するESGインデックス「FTSE Blossom Japan Index」を作成するエフティーエスイー(FTSE)・ジャパンアジア・パシフィックヘッドESGの岸上有沙氏は、「世界の投資家は女性の活躍に大きな関心を寄せており、FTSEは取締役や執行役の女性比率を見ている。比率を高めるためには、男性社員も育児休業を取りやすくするなど女性が活躍できる体制が整っていることが大前提になる」と話す。

 こうした背景から、コアタイムなしのフレックスタイムや在宅勤務、テレワークを導入する企業が増えている。ただし、こうした制度を導入しても社員が活用しなければ、「働き方改革」は絵に描いた餅になる。何より重要なのは、働き方改革を単なる残業時間やコスト削減の手段にするのではなく、顧客により高い付加価値を提供し、競争力を強化するためにやるという経営トップのコミットメントだ。

 サントリーホールディングスは2016年から、新浪剛史社長の強力なリーダーシップの下で働き方改革を推進している。年初に幹部級社員約1000人が一堂に会する「総合会議」で働き方改革の重要性を訴えるなど、随所でメッセージを発信する。

 2017年を「働き方『ナカミ』改革元年」と位置付け、意識改革だけでは実現できない生産性向上を成し遂げ、働き方改革を競争戦略として推し進めます──。2017年3月に立ち上げた社内の好事例(ナレッジ)を共有するサイトでは、新浪社長が自身の言葉で社員にこう語りかけた。

幹部級社員が一堂に介して毎年1月に開催する「総合会議」で、社員に語りかけるサントリーホールディングスの新浪剛史社長。働き方改革を競争戦略に位置付けて全社を挙げて推進する

 働き方改革によって、2017年の残業時間を2015年と比べて約15%削減するなど着実に成果を上げている。

 ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスも、働き方改革を成功させる要因にトップのコミットメントを挙げる。人事総務本部長の島田由香取締役は、「ボトムアップも大切だが、社内のカルチャーを変えるとなると抵抗もあり、時間や労力がかかる。トップがやると決めたらワーッと広がり、浸透が速い」と話す。

 同社は2016年7月に、どこでもいつでも働ける制度「WAA(Work from Anywhere and Anytime、ワーと読む)」を導入。生産性が30%向上し、残業時間を10〜15%減らしている。