取材・構成/小林 佳代
さらに、ESG投資を本格的にスタートさせた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の髙橋則広理事長がESG投資の考え方を解説。「伊藤レポート2.0」で有名な一橋大学大学院商学研究科特任教授の伊藤邦雄氏が、なぜESGへの取り組みが求められるかを語った。
今回は、三菱ケミカルホールディングス会長 経済同友会代表幹事 小林喜光氏の講演を紹介する。
三菱ケミカルホールディングスは「THE KAITEKI COMPANY」を標榜し、地球と共存する経営を実践している。10年来、持続可能性を定量化し経営に組み込む先進的な取り組みを小林喜光会長が紹介した。
地球環境は危機的状況にあります。人口爆発、資源枯渇、食糧危機、水不足、環境汚染など深刻な問題が山積しています。
日本にはもともと、近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」という言葉があります。企業はその思想を今に生かし、儲けを得ながらも、地球と共存し、社会に貢献する経営を追求していくことが重要だと考えています。
持続可能な「KAITEKI経営」
三菱ケミカルホールディングスは事業を通じて人・社会・地球の持続可能な発展に貢献したいという思いを込めて、「THE KAITEKI COMPANY」というコーポレートブランドを掲げています。「時を越え、世代を超え、人と社会、そして地球の心地よさが続く状態」を「KAITEKI」と定義し、それを実現する「KAITEKI経営」をめざしています。
KAITEKI経営のポイントは企業価値を利益(X軸)、技術(Y軸)、社会性(Z軸)という3次元で考えること。3軸からなるベクトルとしての総合的な価値を企業価値ととらえます。
武道やスポーツで勝ち抜くには心技体がすべてそろっていなければなりませんが、経営も同じ。「資本の効率化を重視する経営(MOE)」でしっかり儲け、「イノベーション創出を追求する経営(MOT)」でフロンティアを開拓し、「サステナビリティの向上をめざす経営(MOS)」で地球・社会との共存を図る。この3つの価値軸と、時間や時機など時代の大きな潮流を意識した上で経営しています。MOSは今日のESG経営と重なるものです。
高度成長期、化学産業は環境を汚染し、公害を引き起こしてしまう存在でした。しかし、その後、真摯に反省し、環境改善に努めてきました。かつて黄色く濁っていた福岡県北九州市の洞海湾は澄んだブルーに戻り、大気汚染によるぜんそくが問題になった三重県四日市市にはホタルが舞うようになっています。
我々化学産業は、世界が直面する様々な問題を解決し、人類の持続可能な発展を可能にする各種のソリューションを提供できる存在です。「ポリューションソース」から「ソリューションプロバイダー」に転換したという誇りを持って事業を推進しています。