取材・構成/小林 佳代
さらに、ESG投資を本格的にスタートさせた年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の髙橋則広理事長がESG投資の考え方を解説。「伊藤レポート2.0」で有名な一橋大学大学院商学研究科特任教授の伊藤邦雄氏が、なぜESGへの取り組みが求められるかを語った。
今回は、丸井グループ代表取締役社長代表執行役員 青井 浩氏の講演を紹介する。
2015年から「共創経営レポート」と名付けた統合報告書を発行する丸井グループ。レポート作成をきっかけに統合思考を組織に根付かせるポイントを青井浩代表取締役社長が説明した。
丸井グループは2015年から統合報告書を発行しています。ESG経営を実践する1つの手段として、統合報告書制作にいかに取り組んできたかを紹介します。

ベースにあるのは「統合報告書よりも統合報告、統合報告よりも統合思考が重要」という思想。以下、10のポイントにまとめて説明します。
(1)「共創経営レポート」という名称を使用
発行当初から、あえて統合レポートではなく「共創経営レポート」という独自の名称を使っています。
丸井グループの経営の中核には「共創」という考え方があります。創業者の青井忠治が遺した「信用は私たちがお客様に与えるものではなく、お客様と共に作っていくもの」という言葉を由来とします。今では商品開発、店づくり、広告宣伝、サービスなどあらゆる事業プロセスにお客様視点を取り入れ、お客様と共に価値を創造しようとしています。
統合レポートでは丸井グループを自己紹介する最初の一言として、ステークホルダーに最も伝えたい共創の言葉を取り入れています。
(2)部門横断プロジェクトで制作
統合レポートは経営企画部やIR部、広報部が担当部署となって作る企業が多いと思いますが、丸井グループは色々な部署のメンバーが参加するプロジェクト方式を採用しています。狙いは統合報告の本質である統合思考を広く組織内に根付かせること。プロジェクトには私自身も加わります。
(3)トップマネジメントの参画
統合報告書の制作にトップマネジメントの参画は不可欠です。これは最も強調したいポイントです。統合報告やESGは経営そのもの。トップの関与が大きいほど成果が上がり、外部からの評価も高くなります。私が1年間でミーティングに参加する回数は、「共創経営レポート」だけで20〜28回に達します。
(4)3年を一区切りとして制作
ステークホルダーが統合レポートに求めるものはたくさんあります。企業からすれば改めて整理が必要な事項も数多く、数カ月で作れるものではありません。中期的に焦らず取り組みを行うぐらいの気持ちでちょうど良い。当社は3年間を1つの区切りと考えて制作しています。
(5)年間で2つのレポートを作成
丸井グループは9月に「共創経営レポート」を、12月に「共創サステナビリティレポート」を発行します。毎年、「1つにまとめてはどうか」という指摘を受けますが、9月にやり残したものがあってもすぐに対応でき、1年中活動することで進化し続けられるメリットがあります。
(6)面白いレポートをつくる
できるだけ多くの人に読んでもらえるよう、「面白い」「楽しい」レポートを目指しています。字ばかりだと読みにくいのでお客様や社員の写真を多用します。最近は、就職活動を控えた学生が統合報告書を熱心に読むことが多いので、入社内定者の対談などを掲載し、学生にも興味を持ってもらう工夫をしています。
(7)「社長メッセージ」を社長本人が書く
『日経ヴェリタス』によると、投資家が統合レポートの中で一番関心を持って読むのは社長メッセージだそうです。私は何人かの投資家から「青井さんは自分で書いていますね」と言われたことがあります。裏を返せば、自分で書いていないメッセージはすぐに分かるということ。社長自身が思いを込めてメッセージを書くことが重要です。