冨田 秀実/ロイドレジスタージャパン取締役

あらゆるステークホルダーが企業のサプライチェーンの問題に目を光らせる。大手グローバル企業だけでなく中小企業も対策を急ぐ必要がある。

 労働者の人権侵害や地域の環境汚染など、前編で紹介したサプライチェーンに関わる問題事例は、法律違反のような白黒つきやすい問題ではなく、主に企業のブランドイメージを傷つける評判リスクに関わる問題といえる。裏を返せば、評判を気にしなければ、あえて対応しないという選択肢も取り得る。

 しかし、世界各地で発生する問題事例の積み重ねが、既に様々な方面に影響を及ぼし、企業が「持続可能な調達」の実践を避けては通れない、いわば包囲網が形成されつつある。

 「国際行動規範、国際イニシアチブ、法規制」「市民社会・NGO」「投資家」「顧客・消費者」──。以下、企業に持続可能な調達を迫るこれらについて1つずつ解説していく。

■ 様々なステークホルダーが企業に「持続可能な調達」を要請する

国際行動規範、国際イニシアチブ、法規制

 まず、「国際行動規範、国際イニシアチブ、法規制」だ。サプライチェーン上の人権や環境の問題を認識しつつも、企業の社会的責任が自社のみならず、資本関係のないサプライチェーンにまで及ぶのかという議論は、日本でCSR元年といわれた2003年以降、繰り広げられてきた。しかし、現在はこの問いに対する国際的なコンセンサスが既に確立していると言ってよいだろう。

 一つの回答を提示したのが、国際標準化機構(ISO)が2010年に発行したISO26000(社会的責任の手引き)である。ISO26000は、ISO史上最大といわれるスケールの国際的なマルチステークホルダープロセスを取り入れている。先進国のみならず、アジア、中南米、中東、アフリカ諸国を含めた全世界から、産業界、労働組合、政府、NGO、消費者団体などの多様なステークホルダーが一堂に会し、発行までに約5年の歳月をかけている。

 ISO26000での社会的責任の定義を下に示す。ここで注目すべき点は、「組織の関係の中で実践される」とあるように、社会的責任が自社内の話に限定されてはいないこと。すなわち、「自社で起きたことではないから責任の対象外」という言い訳は立たない。社会的責任を果たすためには、「組織の影響力」を行使することが求められる。

■ ISO26000での社会的責任の定義
注 1:活動は、製品、サービス及びプロセスを含む。 注2:関係とは、組織の影響力の範囲内の活動を指す。
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 社会的責任の対象として、「組織統治」「人権」「労働慣行」「環境」「公正な事業慣行」「消費者課題」「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」という7つの中核主題が定義されている。特に、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行の4項目は、サプライチェーンでの問題が繰り返し指摘されている。

 人権の分野では、「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合『保護、尊重及び救済』枠組実施のために」が、2011年に国連人権理事会で採択された。「保護、尊重及び救済」枠組は、以下の3つの柱から成る。

  • 人権及び基本的自由を尊重、保護及び実現するという国家の既存の義務
  • 特定の機能を果たす特定の社会組織として、適用されるべきすべての法令を順守し人権を尊重するよう求められる、企業の役割
  • 権利及び義務が侵されるときに、それ相応の適切で実効的な救済をする必要性

 この枠組は、国連事務総長特別代表として起草に当たったハーバード大学のジョン・ラギー教授の名を冠し、ラギー・フレームワークとも呼ばれる。人権を保護する国家の義務に加えて、人権に関する企業の責任を、新たな国際合意として明確に定義づけた。

 ここで言及される企業の責任とは、「企業が他者の人権を侵害することを回避し、関与する人権への負の影響に対処すべきこと」を意味している。「国家がその人権義務を果たす能力や意思からは独立しており、国家の義務を軽減させるものではない。さらに、企業の責任は、人権を保護する国内法及び規則の遵守を越えるもので、それらの上位にある」と定義されている。

 人権に関する法規制が脆弱な国・地域では、法令を順守するだけでは不十分で、国際行動規範にのっとった人権の尊重が企業に求められている。この指導原則にも、企業の責任の範囲が、バリューチェーン上の組織、製品またはサービスを含むと明確に記されている。