顧問は社外取締役の人材プール

――トヨタ自動車など日本を代表する大企業も社外取締役の導入は早くはありませんでした。女性の社外取締役の就任はようやく始まるところです。

ワリング 日本で女性の取締役が増えていない問題を私たちも知っています。強調したいのは、企業と投資家の対話の重要性です。2014年の「伊藤レポート」は両者が信頼を高めることに焦点を当てました。コミュニケーションが改善すれば投資が建設的になります。長期的視点に立つ企業に投資する年金基金のような機関投資家と企業が対話をすることで、取締役会の人材を多様化するような改善を進められます。

 取締役会は執行役に反対意見を辞さない挑戦的なものであるべきで、建設的な意思決定につなげることが大切です。そのためには社外取締役を増やす必要があり、女性の取締役も増えてほしいです。望むらくはミレニアル世代の若者で新しい技術の知識がある人も加わるとよいです。

――社外取締役に求められるスキルはどのようなものですか。

ワリング 投資家は日本企業のROEや内部留保、投資分配のことを気にかけています。社外取締役の質にも問題があります。社外取締役のうち少なくとも1人あるいは2人は専門性のある財務的な経験を有することを要件として求めるべきでしょう。改正されるコーポレートガバナンス・コードに盛り込むべきです。

ICGN国際会議には、日本取引所グループや日本公認会計士協会も協力した。投資家、証券取引所、報告書の団体、公認会計士、そして企業や国が一堂に会して日本のガバナンス改革を議論した。右から3人目は、ガバナンス強化に取り組む三菱ケミカルホールディングスの越智仁社長
[クリックすると拡大した画像が開きます]

――社外取締役の人材が不足しているという問題も聞かれます。

ワリング 日本には「顧問」がいますよね。役員を退任した人が顧問になっています。彼らを正式な社外取締役にすればよいと考えます。優秀な人々ですから、顧問でなく社外取締役になっていただく。そう考えると、社外取締役の候補者は日本にたくさんいることになります。

 日本では社外取締役が参加して取締役候補を決める「指名委員会」の設置が普及しつつあります。任意ではなく、すべての企業に必要になると思います。指名委員会が候補として選んだ取締役が起用されれば、執行役が助言にもっと耳を傾けるようになるでしょう。

――投資家が企業のESGの取り組みを知る手段として統合報告書があります。発行する日本企業が増えており、約350社に達しています。数は増えましたが、質はどうでしょうか。

ワリング 統合報告書や環境・CSR報告書の発行数が他の国より多いのは素晴らしいことだと思います。

 ただ、ここにも問題があります。本来なら、執行側が報告書を作り、取締役会が監督して内容を承認します。そのためには取締役会に能力が求められます。気候変動や環境汚染、科学技術の進歩という問題に対して、「長期的価値創造戦略」を自らのものとして語れる必要があります。気候変動の専門家である必要はないですが、意味ある質問を執行役にぶつけられなくてはなりません。

 そして、取締役会が自社の戦略を承認して投資家に示すのです。「この戦略で我が社は成果を出す」と宣言し、責任を取らなければならないのです。執行側が報告書の草案やデータを作ったとしても、報告書を承認するのは取締役会です。投資家はそうした行動を望んでいます。