気候変動の情報開示は不十分

――日本の統合報告書は、取締役会が承認した報告書にはなっていないケースが多いです。

ワリング 日本だけでなく、良い統合報告書は世界的にもまだ多くありません。米ブラックロックのように投資家は対話の過程で持続可能性戦略について提言したり質問書を送ったりします。適切な回答や開示がないと、株主総会での議決権行使につながる可能性があります。

 気候変動の情報開示はまだ不十分ですね。どの企業もリスクにどう対応するか、あまり開示していません。投資家はその企業が長期的な価値創造に成功するか判断が難しい。

 フランスでは投資家が投資先企業のカーボンフットプリント(CFP)を調べて開示することを義務付けています。しかし投資先企業がどれだけ多くのカーボンを排出しているか分からなければ開示できません。こうした情報の開示が将来的に義務付けられていくでしょう。

――統合報告書を作ったことが、社内のガバナンス強化につながったという日本企業もあります。作成過程が社内に良い影響を及ぼしています。

ワリング 統合報告書を作る際には事業全体を見渡すため、企業に影響を与える様々な要因を知ることになります。それにより様々なステークホルダーとの関係性が改善します。通常は良いガバナンスの結果が良い統合報告書になり、良い統合報告書は取締役会の良い仕事ぶりを説明しているはずで、逆ではありません。とはいえ、統合報告書は幅広いステークホルダーとのコミュニケーション改善につながるのは確かです。

 日本では統合報告書発行のブームが起きています。発行によって持続可能性の問題に人々の目が厳しくなると、監督当局が企業や投資家への圧力を強めます。それらが相まって改善を余儀なくされます。持続可能性に企業も投資家も圧力を感じるのは良い流れです。

――日本の持ち合い株(政策保有株)の問題をどう見ていますか。

ワリング 問題ですね。多くの国で株式の持ち合いは行われていますが、日本は割合が高い。これでは投資家が企業を効果的に監視できません。投資家は良きスチュワードであり、良きエンゲージメントをしようとします。企業を監視し、対話し、議決権を行使することを求められていますが、株の持ち合い率が高いと議決権行使が無意味になります。

 強く勧めたいのが、企業になぜ持ち合いをするのか、財務的にどんな意味があるのかを明確にしてもらうことです。私たち投資家は企業に持ち合いを減らすよう求めていますが、具体的にいつまでにどうするか明らかにしてほしい。ガバナンス・コードにも盛り込んでもらえればと考えています。

日本的アプローチに向かう

――長期投資家は四半期ごとの業績報告も見ているのでしょうか。

ワリング 地域によって開示の頻度は異なります。ICGNではマテリアル(重要)な内容について報告を求めていますが、時間的な枠組みは気にしていません。米国では四半期ごとの報告が慣例で、アジアでも一般的ですが、欧州では四半期ごとの報告をやめる動きがあります。

 英国では株主の価値向上の成果だけではなく、多様なステークホルダーの成果を高め、報告する傾向が強まっています。英国のみならず欧州では、広く社会の価値を高めることを報告する方向に向かっています。これは日本的なアプローチに近いものではないかと思います。

 いずれにしろ、世界の機関投資家は日本のガバナンスの向上を認識し歓迎しています。社外取締役を増やし、取締役会の実効性をさらに高めたガバナンスを期待しています。

国際コーポレートガバナンス・ネットワーク(ICGN)事務局長 ケリー・ワリング 氏
写真/中島正之