決め手となるのはガバナンス

 ESGとひとくくりに言いますが、E(環境)とS(社会)とG(ガバナンス)の関係は同位同列ではありません。決め手となるのはG。GはEとSを適切に設計し、制御する役割を果たします。Gがきちんと機能してこそ、EとSを高いレベルでサステナブルに維持できます。

 コーポレートガバナンス改革の初期は、取締役改革や資本生産性を向上するような取り組みに重点が置かれていましたが、この数年はESGが主要なテーマとなっていました。どちらも必要であり、これらを束ねてこそ、企業価値の持続的成長が可能になります。

 2016年に政府が発表した「日本再興戦略2016」は、持続的な企業価値の向上、中長期的投資の促進のための方策として、ESG投資の促進を明記しました。これを受け、経産省は2016年8月に「持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会」を設置。私は座長を務めました。

 研究会は、企業が投資家と対話を行う際の手引きとなる「価値協創ガイダンス」を策定したほか、無形資産やESGなど非財務情報の重要性を指摘した「伊藤レポート2.0」を発表しました。

 2014年に発表した伊藤レポートはROE向上をうたいましたが、ROEも決して万能ではありません。短期主義に陥りやすい、会計的な利益調整を誘導しやすいといった潜在的な毒も持っています。

 一方、ESGも資本生産性の低さの隠れ蓑となったり、ステークホルダーから提供された資源を使う際に緊張感が希薄になったりする可能性が考えられます。ROEとESGとは二項対立するものではなく、どちらも大事です。両者には相乗作用が働きます。良質のROEと良質のESGがドッキングすることで、持続的成長と中長期的な企業価値の向上が実現できます。私はこれを「ROESG」と名付けています。

 経営者はブームに流されず、「なぜESGなのか」という本質を見極めてコミットしていくことが大切です。コーポレートガバナンス改革という大きな文脈の中でESGを進めていることを見失っては、糸の切れた、浮遊するESGになってしまいます。経営者自身がすべてのステークホルダーに対し、ESGの「語り手」となって、企業価値の持続的な向上を実現してほしいと思います。

一橋大学CFO教育研究センター長 一橋大学大学院商学研究科特任教授 伊藤 邦雄 氏
写真/鈴木愛子