世界標準に追いついてない

 日本企業は、従業員や取引先、地域社会との関係を大切にしながら、顧客の満足度を重視した質の高い製品・サービスを生み出す「三方良し」の経営を古くから実践してきた。社会の公器であることを基軸にした社是を持つ企業も多い。本来、ESGとの親和性は高いはずだ。

 だが、投資家から高い評価を受けているのは、富士通など一部の企業に限られる。日本企業への評価は世界に比べ総じて低い。下のグラフにそれが端的に示されている。世界有数の投資家向け情報提供機関であるFTSE RussellがまとめたESG評価に関する日本と世界の比較だ。日本企業が世界平均を上回るのは、14項目中わずか1つ。環境先進国を標榜してきたにもかかわらず、環境分野でも5項目中4項目で世界平均に及ばない。

■日本企業の評価は世界平均を下回る
■日本企業の評価は世界平均を下回る
※FTSE Developed(先進国)Indexの「大型」「中型」の構成銘柄(24カ国、2017年6月20日時点)で日本と世界平均を比較
出所 : FTSE Russell
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 評価が低くなる原因は大きく2つある。第一は、世界標準の取り組みができていない分野があることだ。

 例えば、女性活躍は先進国の中では最低レベルだ。内閣府によると、日本の上場企業における女性役員の比率は2017年時点でわずか3.6%。これは2015年時点の米国の18%、英国の23%、ノルウェーの39%よりも極めて低いレベルだ。ガバナンスの評価も日本企業は低い。執行と監視の分離や、独立社外取締役の数などコーポレートガバナンス体制の構築が遅れてきた。

 人権問題では、人権方針を定めていることや人権デューデリジェンスを実施し、公開していることなどが評価される。従来、日本で人権侵害といえば国内での差別やセクハラを想定していた。グローバル経営に伴い、サプラチェーン上の強制労働など取引先の人権侵害が問題視されるようになっている。

 これらの課題は社会的な慣習や企業文化の違いもあるため、一朝一夕には解決できない。今後、継続的に取り組んでいかなければならない。

 もう1つの見過ごせない大きな要因は「情報開示力」の不足にある。先行する欧米中心に作られてきたESG情報開示のルールに、多くの日本企業が対応できていない。

競争優位性を示しているか

 例えば、統合報告書では、目標を掲げてもそれを評価するKPIを設定しないと、その取り組みが実行されるとは判断されない。

 投資家は取り組みの方針や内容だけでなく、将来的な競争優位性をどのように考えているかを知りたがっている。統合報告書で最も重要なトップメッセージに盛り込まれていないと、投資家には評価されない。トップが人権重視を打ち出しているにもかかわらず人権方針を掲載していないなど、整合性のとれていないケースがある。 

 情報開示だけではなく、投資家とのエンゲージメント(対話)でも企業全体を俯瞰したトップの説明力が求められる。

 「良い取り組みをしているのに経営者が表現力不足で損をしている例もある」。ブラックロック・ジャパンの江良明嗣インベストメント・スチュワードシップ部長は、企業とのエンゲージメントの中でそう感じることがあるという。経営者の考え方を伝えることが、これまで以上に重要になっている。

 加えて、日本企業の良さを理解しやすい立場にある国内の投資家や運用機関にも課題はありそうだ。ESGの取り組みは定性的な情報も多く含まれるため評価が難しい。ESGの取り組みをどのように投資判断に結び付けていくかを模索している段階だ。ある大手企業のCSR担当者は、「エンゲージメントに来た運用会社の担当者の質問が的を射ておらず、適切な評価に結び付いていないと感じる」と漏らす。

 ESG経営とは、企業と投資家の両者が対話しながら企業価値を持続的に向上させていく経営ともいえる。投資家には、ESGの取り組みを見極める「目」と「質問力」が求められる。

「日経ESG」(2018年5月号)では、企業のESG情報開示にまつわる見逃せない問題点を具体的に紹介しています。