事業構造を転換した電力会社

 次にビジネス機会の側面を見ていきたい。ビジネスと持続可能な開発委員会の報告書では、SDGsに関連した60のビジネス領域において、年間約12兆ドルの価値が生まれ、2030年までに最大3億8000万人の雇用を創出すると試算されている。分野別の市場規模を見ると、「モビリティシステム」(2.02兆ドル)や「新たな医療ソリューション」(1.65兆ドル)に続き、第3位に「エネルギー効率」(1.35兆ドル)、第4位に「クリーンエネルギー」(1.20兆ドル)が挙がった(下のグラフ)。

■ 2030年までに増加する市場価値
出所:ビジネスと持続可能な開発委員会「より良きビジネス、より良き世界」
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 この新たなビジネス機会をどのように捉えるべきか。デンマークの電力会社エルステッド(Ørsted)の取り組み事例を基に考えてみたい。同社の2017年度の売上高は約1兆円、同年末の風力発電設置容量は3.9GW(3900万kW)に上る。

 2017年10月、DONG Energyからエルステッドに社名を変更すると発表した。その背景には過去10年にわたる事業ポートフォリオの大幅な変更がある。元の社名は、Danish Oil and Natural Gas(デンマーク石油・天然ガス)の頭文字をとったもので、かつては欧州有数の石炭火力に依存した電力会社だった。しかし、この10年間で再エネ分野に投資する一方、既存の石油・天然ガス事業の売却を進めてきた。2016年10月には石油・ガス火力発電からの撤退を決めた。

 2017年2月には欧州エネルギー大手に先んじて、「2023年までに石炭火力発電所を全廃し風力とバイオマス電源に集中する」と発表した。そして、「2006年比で2023年までにCO2排出量を96%削減する」という大きな目標を掲げたのである。そして、2017年9月の子会社売却をもってすべての石油・天然ガス事業から完全に撤退した。

 同社のサステナビリティ報告書では、事業を通じて最も貢献しているSDGsのターゲットとして下の表にある3つを挙げている。

■ エルステッドのSDGsへの貢献
出所:エルステッドの2017年版のサステナビリテ報告書を基に筆者作成
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 経営方針を大きく転換したことによって、座礁資産化というリスクを回避した。さらに再エネへの投資は、政策的な枠組みにも後押しされ、人権リスクの回避にもつながっている。2008年に同国で成立した再エネ促進法は、地元住民の意見を反映し地域に利益を還元するため、風力発電の設置区域や沿岸自治体の住民に所有権の20%以上を付与しなければならないと定めているからだ。