これは経営者の仕事だ

 TCFDが企業に求めるのは、気候変動の影響を受けた将来の社会経済において事業や資産が被り得るリスクを予測し、対処方針を説明することだ。それも15年や30年などといった長い時間軸での説明が求められる。経営者が指揮を執らなければ実行できない。

 具体的には、下の表にある「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの情報が必要になる。すなわち、この4項目で相応の取り組みを促しているということだ。

■TCFDが金融機関と企業に対し、開示を求めていること
出所:「Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures」Final Report
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 多くの企業が課題と捉えているのが提言の肝となる「戦略」だ。特に将来発生しそうな事象を基に、事業に影響を与える潜在的なリスクや機会を評価し、財務への影響を定性的、または定量的に示す「シナリオ分析」が重要になる。

 TCFDがシナリオ分析のガイドラインを発行しており、欧米企業に先行例がある。だが、まだ事例は少なく、明確な手順が確立されたとはいえない状況だ。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示す「2℃シナリオ」や、IEAの「世界エネルギー展望」などの一般に公表されているシナリオをベースに、自社に合わせて応用するケースが多い。

 TCFDは「政策中立」をうたい、石炭や原子力を否定していない。日本の2030年までの温室効果ガス削減目標や、企業独自のシナリオを使う手もある。

 投資家からの要請の高まりによって今後、世界でシナリオ分析の試行が始まる。しかし、冒頭で紹介したCA100+からメールを受け取った企業の担当者のように、長期的な将来像を描くという膨大な作業をそう簡単に実行できるわけがないというのが企業の本音だろう。

 だが、対応を後回しにするのは得策ではない。情報を出さなければ

「0点」を付けられるのが、情報開示のルールだ。逆に、方法論が確立していない今こそ、独自のシナリオを描くチャンスともいえる。

 不慣れなのは投資家にも当てはまる。情報を評価する力を備えた投資家ばかりではない。情報開示や対話を通じて、リスクをどのように管理し、成長し続けるかを経営者が合理的に説明すれば、投資家を味方に付けられる。

「日経ESG」(2018年6月号)では、数少ないシナリオ分析の先行事例を紹介しています。