聞き手/酒井 耕一(日経ESG発行人)

2019年4月にユーシンと経営統合し、新事業への進出を視野に入れる。ベアリングなど社内の技術を融合する「相合」に取り組む。

――4月10日、自動車関連部品を柱とするユーシンと経営統合しました。今回の統合をどのような心構えで進めましたか。

貝沼 由久(かいぬま・よしひさ)
ミネベアミツミ 代表取締役会長兼社長執行役員(CEO & COO)
1956年生まれ。1978年慶応義塾大学法学部卒。1987年米ハーバード大学ロースクール法学修士課程修了。日本とニューヨークで弁護士として活動した後、1988年ミネベア(現ミネベアミツミ)に取締役法務担当として入社。2009年からミネベア代表取締役社長を務める。ミツミ電機との経営統合により、2017年から現職(写真:木村 輝)

貝沼 由久 氏(以下、敬称略) 期待しているのは、ユーシンが加わることで、当社の自動車業界におけるプレゼンスがさらに高まることです。まずは欧州におけるユーシンの赤字部門の立て直しを最重要課題に設定しました。そこで最初に取り組んだのが当社の企業文化を浸透させることです。

 当初、欧州6工場のうち5工場が、ユーシンが2013年に仏ヴァレオの一部門を買収したときの工場だったこともあり、当社、ユーシン、ヴァレオという3つの異なる文化が混在していました。そのような中で、当社の文化を理解し、納得した上でアクションをしてもらうことがポイントになると考えました。

 ただ、当社グループのドイツ拠点で働く従業員が、当社のものづくりに対する姿勢をしっかりと理解し、現地の人同士できっちりと話し合える土壌を整えていたので、統合前から成功の自信がありました。

――実際に効果は出ていますか。

貝沼 生産性、品質、営業力、ガバナンスとあらゆる点で強化に取り組んでいますが、現時点ではとくに品質改善で大きな効果を発揮しています。以前は品質に対する評価が芳しくなかった工場も、ドイツの大手自動車メーカーから高く評価されるようになり、それに伴い従業員のメンタリティも大きく変わったと感じています。最初に企業文化の理解を深めておくと、軌道に乗ったあとは現地独自の取り組みとして自然に良い方向へ動いてくれます。

――2017年にミツミ電機を統合した際は、社長自身が統合前から積極的に動いたことが良い効果をもたらしました。

貝沼 自分自身が先頭に立つというのが私の経営スタイルです。統合のときには企業文化の問題だけでなく、従業員に将来不安も生まれやすいので、リーダーシップの下、方向性を明確に示すことが重要です。

 今回も実際に私が現地へ何度も足を運び、欧州で最も素晴らしいメーカーを目指すと熱意をもって説明しましたし、それに加え、人材を送り込んで共に改善活動を進めました。それが不安の払拭と人心の掌握につながったと考えています。

タイ大洪水からの教訓

――現地でのリーダーシップといえば、2011年10月のタイ大洪水で工場が被害を受けた際も、社長がリーダーシップを発揮しました。

貝沼 タイの洪水は2009年の社長就任から間もない時期の出来事です。タイは当社最大の拠点で、当時もグローバルで働く7万人の従業員のうち約4万人が働いていました。私は現地で行政に対策を働きかけるとともに、ヘリコプターで交通網が寸断された工場へ毎日通いました。上空から現地の従業員たちが自発的に夜を徹して排水活動に取り組む姿を目にして、感激したことをよく覚えています。

■ 2011年10月のタイ大洪水での様子
貝沼社長ほかによるナワナコン工場内部の状況確認
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多くの従業員が日没後も作業を続けた
 
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(写真提供:ミネベアミツミ)

 当社グループは「五つの心得」を社是としていますが、その筆頭に「従業員が誇りを持てる会社でなければならない」という項目を掲げています。やはり従業員を大切にしなければ、会社の価値向上は実現できません。タイの洪水では結果として致命的な被害に至らず、会社はやはり従業員に支えてもらっているのだという意識を改めて強くするきっかけとなった貴重な経験でした。

 当社では単なる「総合」ではなく、あらゆるリソースを相合わせてシナジーを創出する「相合」の力を重視しています。企業文化の理解を進め、従業員を大切にすることが、「相合」の原動力になっていると再認識した出来事です。2010年に設立したカンボジア工場でも、人材教育を重視し、従業員が誇りを感じられる環境づくりを進めています。

■ 5つの心得
出所:ミネベアミツミ

――海外ではESGの視点でどのような取り組みを進めていますか。

貝沼 当社は海外生産比率が9割に達しており、拠点を構えた地域に歓迎されることが重要です。タイの洪水時も地域の方々に食糧支援を行いましたし、1990年代からアジアなどで工場排水のリサイクルを推進し、環境保護に取り組んでいます。

――経営統合と従業員重視に象徴される「相合」の力を活用し、今後ESGにどう取り組んでいきますか。

貝沼 そもそも当社は製品自体がESGにつながるものです。ESGを考える上で重視するのが、精緻な製品のダウンサイズ。たとえばモーターを回転させる際に摩擦抵抗を減らすベアリングは、省エネを実現し、エネルギー削減で社会に貢献します。さらには今回の統合で、IoTなど先端技術の活用により自動車分野はもちろん、メディカル、インフラ、住宅設備など多様な分野で新たなシナジーを生み、社会に貢献していけると考えています。チャレンジングな取り組みではありますが、業容拡大に向けて挑戦は欠かせません。