聞き手/斎藤 正一(日経ESG経営フォーラム事務局長)

総合製紙メーカー、アジア・パルプ・アンド・ペーパー(APP)は、インドネシアに本拠を置く。森林の違法伐採問題の根幹には貧困があるとして、社会課題の解決に力を注ぐ。

――2013年に森林保護方針を発表し6年が経ちます。この間の取り組みをどのように評価しますか。

エリム・スリタバ
エイピーピー 持続可能性及びステークホルダー担当役員
1973年インドネシア 南スラウェシ州生まれ。2005年APPグループのシナルマス・フォレストリー(現・APPフォレストリー)入社、2013年のAPPグループによる森林保護方針(FCP)の発表以降、現場における実施責任者を務める、2014年より戦略的コーポレートリレーション&HRディレクター、2017年より現職(写真:Yohanes Januadi)

エリム・スリタバ 氏(以下、敬称略) この間、森林保護方針で宣言した通り、自然林を伐採することなく事業活動を進めてきました。

 現在、約60万haの自然林の保護をしています。以前は毎年、保有している自然林の約5%がダメージを受けていましたが、この2年間は適切な森林管理で損失を年0.15%に減らしました。

 インドネシアの新しい泥炭地管理規制も順守しています。7000haに及ぶ泥炭地上の植林地を閉鎖して、自然林に戻す取り組みを進めています。これだけの規模で泥炭地から自然林を再生している企業は、当社だけだと自負しています。

――しかし、WWFジャパンは、森林保護方針が守られていないと深刻な懸念を表明しています。

スリタバ 環境の取り組みが完璧な企業は、恐らく1社もないと思います。私たちの活動にも問題があると認識していますし、NGOから指摘を受けていることも承知しています。ただ、活動がどれだけ前進しているかが、一番大切なことだと考えています。

 NGOの方々とは、常にオープンな形で対話をして建設的な議論をしていきたい。毎年、「ステークホルダー・アドバイザリー・フォーラム」を開催し、多くの方々から意見を伺っています。この会合にWWFインドネシアを招待しているのですが、この数年参加されていないので意見交換ができていないのが現状です。WWFインドネシアのスタッフとは、スマトラ島の野生のトラやゾウを保護する研究調査プログラムを協力して行っています。

――森林保護方針の順守には課題があるのですね。課題解決のために、どんな取り組みを進めていますか。

スリタバ 焼き畑を含む違法伐採が現場での最大の課題です。森林破壊は、地域の人たちの貧困が問題の根幹にあります、貧しさから抜け出そうと森林を伐採してしまうのです。

 APPでは、管理する森林地域の内外で2016年から総合森林農業システムの導入を進めています。資金がない農民に資金を貸し出し、地域に適した農作物を作るノウハウを提供して経済的自立を後押ししています。もっとも、これだけでは問題は解決できないので、効果的な取り組みがないかを模索しています。

――森林を保護するには貧困を解決しなくてはならないわけですね。

スリタバ 森林から原料を調達しているAPPが環境保護に取り組むのは当然です。同時に貧困などの社会課題を解決する取り組みも、必要不可欠だと考えています。現在、総合森林農業システムで302の村を支援しています。2020年までに500の村に導入するのが目標です。

 村の支援と経済的な自立のために何をすればよいかについては、社会的問題を専門とするNGOなどからアドバイスを受けています。

植林するユーカリは最もよい木の細胞を細胞培養法でクローン栽培する(左上)、ユーカリは年間5m伸びるので5〜6年後に伐採する(右)、総合森林農業システムの支援を受けてアブラヤシの栽培から野菜の栽培に転換したスマトラ島の農家(左下)(写真:長谷川 周人)