投資家との対話を積極活用

――社会課題の解決は国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも貢献します。最近、SDGsに取り組む企業が増えましたが、社会貢献的なニッチなビジネスになりがちです。SDGsは本業のメインストリームになりますか。

ストーマー 当社は現在、SDGsの目標3の健康と12の持続可能な生産と消費に特に力を入れています。

 中国の例を話しましょう。中国では糖尿病が大きな問題に浮上してきました。SDGsの目標3.4は、2030年までに糖尿病を含む慢性疾患の若年性死亡率を3分の1減らすというものです。私たちは死亡率を3分の1削減するのにどうすべきか社内で分析しました。データを基に中国の厚生労働省に相当する機関を訪れ、こう話しました。「当社が治療薬を提供します。他の団体が病院を建設すれば、連携によって当社は医師をトレーニングする貢献もできます」。中国政府と共に新しいビジネスを展開できるかもしれません。

SDGsの全17個の目標に取り組んでいるが、特に目標3「健康と福祉」と目標12「持続可能な生産と消費」に注力している
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――SDGsをテーマにして本業のメインストリームで新規ビジネスを立ち上げられるということですね。政府や他企業との連携が重要になりますね。

ストーマー その通りです。SDGsの目標1から15までは社会ニーズを集約したもの、16はガバナンスや法律整備、人権配慮を定めたもの、17はパートナーシップです。私は16と17を活用して他の15個の目標に貢献できると考えています。

――ESG投資家とはどのようなコミュニケーションをしていますか。

ストーマー 2002年から投資家と対話を始め、2004年から統合報告書の発行を開始しました。統合報告書には「治療薬の利用を担保する」というストーリーとデータをパッケージで載せています。また、投資家への説明の場を設け、詳細な情報を伝えています。

 加えて、多くの投資家から質問書や手紙、問い合わせが来ます。CDP、ダウ・ジョーンズ、MSCI、サステイナリティクスなど、ほとんどすべての質問に回答しています。

――投資家から届く大量の質問書への回答が大変だと日本企業から聞きます。

ストーマー 想定される質問と回答をウェブサイトに載せ、細かな質問はそちらに誘導しています。質問書に答えることで、投資家から何が期待されているか、どんなビジネスに取り組んだらよいかが学べます。

 開示場所を分け、統合報告書にはハイライトを、ウェブサイトには詳細なデータを載せています。

 当社は事業を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す「RE100」に加盟し、2020年までに世界の全生産拠点で再エネ100%にする目標を掲げています。現在は79%。デンマークでは風力やバイオマス、水力で賄っています。日本の郡山工場ではグリーン電力証書の購入で100%を達成しました。統合報告書にはこの活動のハイライトを載せ、CDPのサイトに詳細を紹介しています。

「評判」を指標化

――統合報告書の発行によって、社内に変化はありましたか。

ストーマー 報告書を作る際に様々な事業部門の部長が集まり、何を盛り込むべきか話し合いました。他部門の事業を知ったことで、サステナビリティが社内に浸透しました。

 また、社員がどんな行動をしたら報酬を受けるかを指標化し、CEOからの強力なメッセージとして伝えました。つまり社員がサステナビリティを進めるためのインセンティブを与える仕組みをつくったのです。

 社員は売り上げだけではなく、環境や社会への責任を果たすことが求められます。CO2排出量の削減やエネルギー消費の節約など環境への貢献も大切。社員同士の対話や交流の促進も、企業風土の強化につながる貢献です。これらを指標化し、各社員の目標値に落とし込みました。

 評判も指標化しました。主なステークホルダーである医師、患者、社員、メディア、投資家にアンケートを取り、会社の評判を聞いています。これは各支社の評価になり、点数が低い項目が改善目標になります。

 私たちは評判を「関係性の資本」と呼んでいます。統合報告書は6つの資本について価値創造の説明を求めていますが、財務資本などは企業価値の一部でしかありません。財務指標以外で企業の取り組みを伝えないと投資家から評価してもらえない時代になってきました。ESGの重要性が増してきています。

ノボ ノルディスクのCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー) スザンヌ・ストーマー氏(写真:中島正之)