半澤 智

エーザイは、非財務資本の価値を定量化して訴求するIR活動を実践している。ROE(自己資本利益率)とESGを連携させた「ROESGモデル」を提唱する。

――エーザイで、CFO(最高財務責任者)の立場からESG経営を推進している。

柳 良平 氏(以下、敬称略) 「CFOがなぜESGのことに口を出すのか」と言われることがある。エーザイは、グローバルに事業を展開する医薬品メーカーだ。医薬品は研究開発から事業化までに10~20年かかるものも多く、長期的な視点を持った投資家への訴求が欠かせない。

ESGの価値を「見える化」

柳 良平
エーザイ 常務執行役 CFO 早稲田大学客員教授(写真:中島 正之)

 ESGが重要というのは、統合報告書でも示している。通常、マテリアリティ(重要課題)の選定は、「社会へのインパクト」と「事業へのインパクト」の2軸を使う。エーザイでは、「長期投資家の関心」と「事業へのインパクト」の2軸を使っている。CFOの立場における究極の目的は、ESGに注目する長期投資家に報いることだ。

 顧客や従業員、地域社会への貢献を後回しにしているというわけではない。ESGの取り組みで患者に貢献し、その結果として利益を出す。これを企業理念として定めており、定款に明記して株主と共有している。これはショートターミズム(短期志向)の否定でもある。

――投資家はROE(自己資本利益率)を重要視する。ESGの評価は正当に評価されているのか。

なぜ日本でガバナンス改革が進められているのか。それは、日本企業の価値が低く評価されているからだ。企業価値を示す指標として、PBR(株価純資産倍率)がある。会計上の企業価値(純資産)に対して、市場での評価(株価)が何倍になっているかを示すものだ。PBRが1倍以上の部分は財務的な価値以外を示しており、「見えない資本」と捉えられる。つまりこのPBRが1倍以上の部分が、ESGの価値だ(下図)。

■ エーザイはESGの価値を定量化して把握
エーザイのPBR(株価純資産倍率)の推移。PBRは、株価が純資産の何倍の値段になっているかを示す指標。PBRが1倍以上の部分を、ESGをはじめとする非財務情報の価値と見なす
(出所:エーザイ「統合報告書2018」)
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