米国企業の平均PBRは約3倍、英国やドイツは2倍なのに対して、日本企業 はここ10年間ほど1倍前後で推移している。PBRが1倍を割っている状態は、企業の存在価値以上の評価が得られておらず、今すぐ解散した方がよいという評価になる。

 なぜ日本企業のPBRが低いのか。理由は2つ考えられる。

 1つは、ROEが低いことだ。PBRは、ROEとPER(株価収益率)の積で表される。ROEが低ければ、おのずとPBRも低くなる。

 企業は、株主が期待するリターン(株主資本コスト)以上の利益を上げる必要がある。株主資本コストが8%だとしたら、株主に儲けを還元するにはROEを8%超にする必要がある。このROEと株主資本コストの差を「エクイティ・スプレッド」と呼んでいる。

 非財務資本の評価にはいろいろな方法があるが、将来にわたって得られるであろうエクイティ・スプレッドを現在価値に割り戻した総和とも考えられる。企業価値を高めるためには、正のエクイティ・スプレッドを確保する必要があり、やはりROEを大きくしなければならない。

 経済産業省が2014年8月に出した「伊藤レポート」の執筆に携わり、「ROEは8%以上を目指すべき」と提言した。この「8%」という数値には根拠がある。海外投資家にアンケートを取ると、8%がコンセンサスになっている。また、企業のPBRとROEの相関を見ると、ROEが8%を超えるとPBRが1以上になる。「8%」は、付加価値が創造される“魔法の数字”というわけだ。

日本は「ESGディスカウント」

 ROE8%を達成する企業が増えてきたことは望ましい。ただし、これは価値創造の最低水準であり、企業価値向上のためには、さらなるROEの向上を目指す必要がある。

 日本企業のPBRが低いもう1つの理由は、ESGの評価が低く見積もられる「ESGディスカウント」の状態にあることだ。昔から環境や社会への貢献意識が強い日本企業に、ESGによる潜在価値がないとは思えない。IR活動、財務戦略、情報公開が不十分で、投資家から正しく評価されていない可能性がある。ここを改善し、ESGの価値を創造していくことで、日本企業の価値は現在の2倍になると思っている。

――2018年のIR優良企業大賞に選ばれた。投資家にどのようにESGの価値をアピールすべきか。

当社では、経営トップが投資家と対話し、中長期に目指す姿と経営課題を語っている。社外取締役が登壇する説明会や、統合報告書の説明会などでもESG情報を発信している。私も年間200件以上の海外投資家と対話しており、そのほとんどがESGの対話だ。企業理念の説明から始まり、ESGの価値をPBRという指標で捉え、ESGの価値の拡大がROEという株主の価値につながることを説明する。数値を交えて説明すると、投資家への訴求力が増す。

 「ESGのためのESG」ではなく、「持続的な企業価値創造のためのESG」である必要がある。その実現に、ROEとESGを結びつけたこの「ROESGモデル」が活用できる。