再エネ・省エネで500万人を雇用

 欧州委員会はEU域内において温室効果ガス排出量の急速な削減と、省エネや再生可能エネルギー、水素などといった低炭素技術の導入を進める考えだ。経済成長との両立は図れるか。来日した欧州委員会の担当者に尋ねた。

――長期戦略の経済効果はどうか。

アイランド 今回の長期戦略は欧州経済の脱炭素化と近代化の意図がある。新技術の開発やエネルギー関連投資に追加の対策コストが生じるが、1990年と比べた2050年の経済は2倍になる。また、特段の対策を打たなかった場合と比べてGDPは2%上回ると試算している。

リチャーズ 既にEU域内で再生可能エネルギー関連事業で100万人、省エネ関連事業で400万人の雇用がこの5年程度で生まれている。

欧州委員会エネルギー総局A局(エネルギー政策)のミーガン・リチャーズ局長(左)と同気候行動総局C1課のトム・ヴァン・アイランド課長(写真:中島 正之)

――これだけの温室効果ガスを削減するには、産業政策が必要になる。

リチャーズ 産業界が、対策コストを上回る利益を得られる法的な仕組みが要る。

 例えばエネルギー業界に対しては、新技術の導入とプロセスの改善を促す政策を導入することで、エネルギー効率が改善するだけでなく、燃料コストを引き下げるという利益を得られるようにする。

 他の産業に対しても、自社工場の電力需要を自前の再エネで賄うことを推奨する。太陽光発電や風力発電、地域が限定されるが地熱発電などで賄えばコストが安くなる。余剰の電力を電力会社に売って利益も得られるようにする。

アイランド 産業からの排出を減らす様々な技術が提案されている。例えば、鉄鋼業界は製鉄に使う石炭を水素に代えてCO2排出を減らす技術の開発を進めている。また、リサイクル材の活用を促す循環経済型技術の開発も加速している。

 こうした技術開発イニシアチブは、実証事業のための資金を必要としている。そこで我々は実証事業を支援する基金を運営している。基金には、EU域内で展開している欧州排出量取引制度(EU ETS)で得られた資金を投じている。企業に対して排出枠を配布するために行うオークションで生まれる歳入だ。

ガスを再エネ由来水素などに転換

――シミュレーションによれば2050年のエネルギー消費に占める石炭比率をほぼゼロにし、ガソリンなど石油製品も減らし、化石燃料のうちCO2排出の最も少ない天然ガスの利用も少ない。石炭、石油だけでなく天然ガスも絞り込むのか。

リチャーズ 天然ガスは短期的には、依然として重要な燃料だ。石炭火力発電の代替として、また、太陽光発電や風力発電などの出力の変動を補うのに天然ガス火力発電は欠かせない。ただし中期では天然ガスを、(バイオマスから生成する)バイオガスや再エネを使って造る水素などに代替していく。

――ドイツ政府は原子力発電の利用停止を掲げ、国民からは脱石炭政策への反発もあるなどCO2削減と逆行する動きがみられる。またフランスでは、エマニュエル・マクロン大統領の掲げる燃料税への反発も見られる。気候変動対策は、市民を置き去りにしていないだろうか。

リチャーズ 国によって抱える課題は様々だ。ドイツでは政治的な理由により原発の運転を将来、停止する。また、ドイツで脱石炭に反対するのは少数の石炭関連産業の労働組合だ。EUには、温暖化対策をはじめ様々な取り組みを加盟国に促す支援メカニズムがあって成果を上げている。その一環で資金支援も行っている。脱石炭で最も影響を受ける市民に対して資金面で支援する。また、低炭素型の新技術で新しい雇用が生まれている。

 フランスは、原発を減らすとはいえ使い続ける考えだ。パリの反政権デモ「黄色いベスト」の参加者は、燃料税が低所得者に及ぼす影響が大きいために反対しているが、気候変動対策には意欲を表明している。欧州でも格差が広がっているが、市民が気候変動に貢献しないと言っているわけではない。

――長期戦略には「すべての人にクリーンな地球を」というタイトルが付いている。他の先進国、新興国、途上国に働きかけなければ「クリーンな地球」にはならない。他の国にどう働きかけるか。

リチャーズ これから取り組まなければならないことだ。パリ協定の精神とは、すべての国と地域が、協定が定めた2020年以降の温暖化対策の枠組みに関わっていくことだ。

 今回の長期戦略は欧州委員会がまとめたビジョンであり、まずはEU加盟国による合意が必要になる。その合意を得られれば、EUが持続可能な成長の手本を示し、世界をリードする考えだ。

 今、EUの温室効果ガス排出量は世界の10%程度と大きいが、それでも長期戦略に基づき、2050年に実質ゼロの実現を目指す。同時に、経済成長を担保して雇用を確保することで、持続可能な社会の形成は可能なのだと世界に示したい。