相馬 隆宏
サントリーホールディングスが水リスク管理の強化に乗り出した。水不足が懸念される地域で住民からの信頼性を高め工場の安定操業を維持する。
鳥取県江府町にある「サントリー天然水 奥大山ブナの森工場」は2019年1月、水利用に関する「Alliance for Water Stewardship(AWS)」認証を取得した。AWSは、世界自然保護基金(WWF)や企業などが設立した機関で、持続可能な水利用に取り組む工場を認証している。これまでネスレグループの工場などが認証を取得している。

(写真:サントリーホールディングス)
サントリーグループは、「水と生きる」をコーポレートメッセージに掲げ、節水や水源涵養など水の保全活動に取り組んできたことで知られる。企業の水の取り組みを評価する「CDPウォーターセキュリティ」では、3年連続で最高評価の「A」を獲得している。
気候変動で干ばつリスク増加
そのサントリーグループがAWS認証を取得したのはなぜか。サントリーホールディングスコーポレートサステナビリティ推進本部サステナビリティ推進部の椎名武伸部長は、「工場の水の利用に対して悪い評判が立たないようにすることが最も重要だ」と話す。
AWSの審査では、工場周辺の流域に住むステークホルダー(利害関係者)に配慮し、水利用に関する情報を適切に開示しているかといった点も見る。つまり、住民と信頼関係を築き、地域と共生している工場でなければ認証を取得しにくい。
水不足が深刻な地域では、水を大量に使用する食品メーカーなどが批判される事態が過去に起きている。最悪の場合、訴訟や不買運動に発展する恐れもあるため、評判リスクを避けることは企業の重要課題になっている。「今のところ、水の利用について住民から指摘されることはないが、気候変動は激しくなっており、干ばつが進めば、これから何か起きないとは限らない。世界で水の規制も強化される傾向にある」(椎名部長)。
今後は、鳥取の工場で得た知見を生かし、国内外の他の工場でも地域住民との信頼関係を強化するとともにAWSの認証取得も検討する。
2019年1月に世界経済フォーラムが公表した「グローバルリスク報告書」で、水危機は影響の大きいリスクの4番目に挙がる。特に水リスクの高い地域に工場がある企業は、早めに手を打つ必要があるだろう。