藤田 香

食品や小売りの世界的な業界団体が、強制労働の撲滅に本腰を入れて取り組み始めた。外国人労働者の雇用手数料を問題視し、G20を前に日本企業の意識向上を狙う。

――食品・小売企業が加盟する消費財の世界的団体「ザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム(CGF)」は、2018年6月に強制労働に関する行動の呼び掛けを行った。なぜか。

ディディエ・ベンゲレ
ザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム(CGF) 社会的サステナビリティ&持続可能なサプライチェーン・イニシアティブ(SSCI) ディレクター
(写真:中島 正之)

ディディエ・ベンゲレ 氏(以下、敬称略) CGFには米ウォルマートやスイスのネスレ、英蘭ユニリーバなど世界約70カ国の440社が加盟し、影響力が大きい。日本企業も約70社加盟している。

 これまでCGFはサステナビリティに関して環境面に特化した決議をいくつも出してきたが、加盟企業から社会面の課題にも一丸となって取り組むべきだという声が高まった。中でも強制労働が最重要課題だという結論に至った。

 強制労働は深刻化し、複雑になっている。サプライチェーンの離れた場所で起きる場合もあれば、自社の拠点でも起きる。我々は2015年に強制労働を撲滅する決議や、2016年に3項目から成る優先的原則を発表したが、強制労働を終わらせるには社会的な運動にしなければならないと考え、行動の呼び掛けを行った。各社のCEO(最高経営責任者)が賛同を始めている。

■ CGFの社会的なサステナビリティに関する決議と原則

――どのような強制労働があるか。企業の監査では見抜けないのか。

ベンゲレ 調査の結果、サプライヤーの企業で外国人労働者がパスポートを取り上げられた例がいくつも見つかった。労働者の移動の自由を奪い、強制労働に当たる。学位証明書や結婚指輪を取り上げる例もあった。サプライヤー行動規範を定めて監査している企業でも、見つけにくい。強制労働させられている人は、恐れや脅しから自己申告できない。

 5~6年前からは新たな問題も表面化した。外国人労働者から雇用手数料を徴収する問題だ。日本の外国人技能実習生で問題になっている。彼らは自国の送り出し機関に保証金を払い、ブローカーの仲介で企業に実習に来るが、健康診断書作成や入国手続きなど様々な費用を借金として背負わされる。2年分の給料を借金として背負わされた人もいた。

■ 日本の外国人労働者数の推移
注)「資格外活動」は留学生のアルバイトなど、「特定活動」は経済連携協定に基づく看護師など、「専門的・技術的分野の在留資格」は教授や医師など、「身分に基づく在留資格」は日系人など
(出所:厚生労働省のデータを基に作成)
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 世界には2500万人の外国人労働者がいて、その半分が借金を背負い、強制労働に陥っている。我々の業界でも大きなリスクになると考え、優先的原則の2つ目に「代償を支払わせてはならない」と定めた。

――欧米企業で強制労働に取り組んでいる良い事例はあるか。

ベンゲレ まず、CGFの加盟企業のCEOたちが強制労働の存在を認めていることが第一歩として重要であることを知っていただきたい。消費者と接する業界であるだけに誤解を招く恐れもあるが、それでも認める大胆さをCEOたちは持っている。

 優れた事例としては、例えばタイのシーフードの強制労働に取り組むウォルマートがある。漁船の位置を衛星画像で捉えて地図上に表示し、追跡する技術を活用している。小型船が海の上で長らく動かず、大型船が魚を積んで港に運ぶケースでは、小型船の労働者が強制労働をさせられている危険性がある。

 ウォルマートは、英テスコや米マーズなどと協力し、証拠を集めてタイ政府に突き付けた。その結果、タイは2019年1月、漁船の乗組員の労働条件保護を目指す国際労働機関(ILO)漁業労働条約に批准した。

 英マークス・アンド・スペンサーは、自社の商品のサプライチェーンにおける強制労働を詳細に調査し、報告書で公開した。素晴らしい取り組みだ。パーム油にも強制労働リスクがあることが、公正労働協会への委託調査で浮かび上がった。マーズやユニリーバ、米P&Gはこの問題に積極的に取り組んでいる。