馬場 未希

ANAホールディングスは顧客や従業員のための環境整備で債券を発行する。グループ中期経営戦略で掲げるESG経営の実現に生かす。

 ANAホールディングスは2019年5月22日、日本企業初の「ソーシャルボンド」と呼ぶ社債を発行した。発行金額50億円、額面1億円の7年債で償還日は2026年5月22日。利率は0.27%だ。

社会への配慮で高い評価

 世界でCO2削減や省エネ設備投資に用途を限るグリーンボンド(環境債)の発行額が拡大している。ソーシャルボンドは、社会課題に対処するための資金調達に使う。国内事例では他に、独立行政法人日本学生支援機構が2018年発行した社債がある。

空港のチェックインカウンター(上)や搭乗ゲートなどでユニバーサル対応を進める
(写真提供:ANAホールディングス)
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 ANAホールディングスは調達資金のうち20億円を旅客へのユニバーサルなサービスに投じる。手助けが必要な旅客に対応するため、車いすで使いやすいチェックインカウンターや搭乗ゲートなど空港内の同社設備を改修する。他に20億円を投じて、同社ウェブサイトに音声読み上げ機能などを加える。事業所のトイレなどの改修にも10億円を充て、従業員にユニバーサルな環境を用意する。

 同社は2018〜22年度のグループ中期経営戦略において、経営基盤の1つに「社会的価値の創造」を据えた。社会課題への対処の1つとして、「ダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包摂)を推進し、本業を通じてユニバーサル対応を進め多様な人たちの活躍を支援、推進することを戦略に組み込んだ」と同社CSR推進部の宮田千夏子部長は話す。今回の社債はその実現に生かす。

 投資家の評判も上々だ。社債の販売を5月に始めたところ、最大50件の投資を受け付けるところに3.3倍に当たる購入の申し出があった。発行当日には購入した投資家のうち30組織が投資表明し、投資家自身のESG配慮をアピールした。

 今回の社債は、ソーシャルボンドの信頼性や透明性などを担保するために国際資本市場協会(ICMA)がまとめた「ソーシャルボンド原則(SBP)」にのっとって設計された。

 社債のストラクチャリングエージェントを務めたSMBC日興証券は、SBPに沿った設計をANAホールディングスに提案した。その結果、資金の使い道が社会配慮に貢献するかを第三者評価した日本格付研究所(JCR)から、独自のソーシャル金融評価手法で最上位評価を獲得した。

 とはいえ、一般にSBPが求める条件を満たすには、社債発行を担う財務部門が、関係する部門や事業部と綿密に打ち合わせるなど、担当者の工数が増えがちだ。第三者評価を受けるにも費用がかかる。それでも、一般社債や金融機関の融資にはない利点がある。「ESG投資への注目が高いことから、調達した資金を投じる全社を挙げた取り組みに世間の目が集まる。加えて、非財務のESG活動が、財務の資金調達につながるという良い循環が生まれる」と、ANAホールディングス・グループ経理・財務室財務企画・IR部の三宅一史マネジャーは話す。

 ESG投資への関心の高さから社債の需要が高まった結果、利率が下がり社債発行企業にとって有利に働く面もある。企業の社会課題への配慮を加速する社債発行が増えそうだ。