馬場 未希

ESG投資家を束ねる「PRI」が将来の気候変動政策の転換シナリオを発表した。2025年に予想される政策転換を、投資判断に織り込むべきだという。

 2025年は世界で気候変動政策が強化される転機になる。ところがその「強力で、突然の」変化を、現在の金融市場は価格に織り込んでいない─。世界のESG投資家が参加するイニシアチブ、「PRI」が2019年9月に発表した報告書「避けられない政策対応(Inevitable Policy Response)」は、こう指摘する。

 PRIは、国連の「責任投資原則(PRI)」に署名した世界の機関投資家のネットワークで、2006年に発足した。現在、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など世界約2370機関が原則に署名しており、資産総額は86兆ドル(約9340兆円)を超す。

中長期の政策転換を予測

 報告書は署名機関投資家に向けて気候変動に関する世界の政策転換を予測し、示している。

 大きな転換は2023〜25年に起こるという。パリ協定が締約国に対策強化を求めるタイミングだからだ。

 2023年は、パリ協定の規定により「グローバルストックテイク」が開催される。ここでは、その時点における世界全体の温室効果ガス削減の進捗が、世界平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃や1.5℃に抑える目標に見合うかどうかを評価する。削減の遅れがさらに強調され、国際社会の注目が集まるとみられる。

 またパリ協定は締約国に対し、2025年までに新たな削減目標の提出を義務付けている。例えば日本は、現在掲げる2030年度よりも先の目標を国連に提出する必要がある。グローバルストックテイクを踏まえた、いっそうの対策強化が盛り込まれるという。

 これにより、エネルギーや炭素価格など8分野の政策がどう強化されるか、2030年や2050年の中長期シナリオを示した(下の表)。2025年の政策急変を念頭に置きながら、投資判断をするのに役立ちそうだ。

■ PRIによる政策導入の予測
すべてPRIによる予測。主に日本に関係する部分を抜粋。PRIがCCSを導入する産業として想定するのは、鉄鋼、化学(アンモニア・メタノール製造)、石油精製など。「CCS」はCO2回収・貯留技術、「BECCS」はバイオマス発電とCCSの組み合わせ
(出所:PRI「Inevitable Policy Response(避けられない政策対応)」を基にみずほ情報総研が作成(編集部が一部要約))
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 PRIシナリオの特徴は、各国の制度の他、報道などを基にした制度化の動きや企業の動向を踏まえている点だ。そのため現実的だが、2℃や1.5℃目標を目指す内容ではない。

 気候変動に関わる長期シナリオには、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や国際エネルギー機関(IEA)が発表した1.5℃や2℃に温上昇を抑えるシナリオがある。これらは気温上昇を抑えるため、採用すべき政策強化や技術を示したものだ。理想的だが現状との差が大きく、すぐに採用しづらいため、現実味がやや低いのが実情だ。

■ PRIの予測では2025年頃からCO2が減る
IEAは「国際エネルギー機関」、IPCCは「気候変動に関する政府間パネル」のこと。P1はIPCCによる1.5℃シナリオの1つ。エネルギー起源CO2は、エネルギー利用に伴うCO2排出量のこと
(出所:PRI「Inevitable Policy Responce(避けられない政策対応)」)
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 みずほ情報総研の柴田昌彦シニアコンサルタントは「PRIのシナリオは2025年頃に起こり得る現実的な移行シナリオの予測を試みた最初の例として注目されそうだ」と話す。