藤田 香

国連は2030年に向けた生物多様性の新目標の草案を発表した。数値目標を盛り込み、企業の巻き込みを狙うが、達成の道筋は見えにくい。

 2020年1月6日、国連の生物多様性条約事務局は、2020年以降の生物多様性の世界目標となる「ポスト愛知目標」の草案を発表した。数値による定量目標を数多く盛り込むとともに、サプライチェーン管理など企業の取り組みを促しているのが特徴だ。

 生物多様性は気候変動と並ぶ地球規模の環境問題の主要テーマだ。世界経済フォーラムが2020年1月の年次総会(ダボス会議)に先立ち発表したグローバルリスクによると、今後10年間で影響度の大きいグローバルリスクの3位に「大規模な生物多様性の損失」を挙げた。国連は生物多様性条約締約国会議(COP)で国際的な対策の枠組みを定めてきた。現行の枠組みは、10年に名古屋市で開催されたCOP10で採択された「愛知目標」で20年が最終年となる。しかし温暖化対策とは異なり、生物多様性の取り組みは定量化しにくく、大きな成果を残せなかった。2019年発表されたIPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)地球規模評価報告書は、愛知目標の多くが未達成に終わるという厳しい報告をした。

初の長期目標も

 その後継目標となるのが、2020年10月15日~28日に中国・昆明で開催されるCOP15で採択予定の「ポスト愛知目標」である。30年までの目標を定める。ポスト愛知目標の草案には3つの特徴がある。1つ目はより実効性を持たせるため、数値による定量目標を多く盛り込んだこと。2つ目はIPBES報告書が指摘した生物多様性の5つの脅威、「土地利用」「外来生物」「汚染」「乱獲」「気候変動」への対策を盛り込んだこと。3つ目は最終年が同じ30年のSDGs(持続可能な開発目標)と整合性を取ったことだ。

 加えて、長期目標「2030年・2050年ゴール」を初めて設けた。30年までに生物多様性の損失を実質ゼロにする「ノーネットロス」、50年までに20%以上向上させるという目標を示した。いわば気候変動の2℃や1.5℃目標に当たる。

 30年の行動目標である「ポスト愛知目標」は20の目標から成り、3つに分類される。目標1~6はIPBES報告書が指摘した生物多様性の脅威への対策。目標7~11は自然の恵みを人々が持続可能に利用していくことを促す目標。SDGsの食料安全保障や水へのアクセスの目標と整合性を取る記述になっている。

 目標12~20は国や企業、消費者による解決手法を示すもの。生物多様性の保全には経済、法律、人々の行動変容などの社会変革「transformative change」が必要だとし、若者の参画も初めて明示的に盛り込んだ。変革を促すためには消費と廃棄の総量削減や、技術革新、投資、教育の促進が求められる。

 なかでも企業が注目すべき目標は14と17、4、5である。目標14は「サプライチェーン全体で、経済セクターを持続可能な形態に改革し、30年までに生物多様性への負の影響を50%以上削減する」というもの。影響の測り方はまだ示されていないが、生物多様性方針の策定やインパクト評価を実施する企業・団体数が指標として提案されている。

 目標17は消費に焦点を当てた。「あらゆる人々が持続可能な消費とライフスタイルに向けた計測可能なステップを踏み、30年までに持続可能な消費を達成する」とある。「計測可能なステップ」の指標案に「エコロジカル・フットプリント」などを挙げている。環境省生物多様性戦略推進室長の中澤圭一氏は、「認証製品の比率も考えられる」と話す。

 目標4は「過剰な栄養、殺生物剤、プラスチック廃棄物からの汚染を50%以上減らす」。プラスチック廃棄物を初めて明示的に盛り込んだ。

 目標5は乱獲の防止についてだ。「野生種の採取、取引、利用を適法で持続可能なレベルにする」という表現にとどまる。だが、指標案を見ると、FSC(森林管理協議会)認証やPEFC認証で管理している森林面積や、MSC(海洋管理協議会)認証による漁業の割合の変化などが提案されており、企業にも実効性を求める目標になっている。

■ 生物多様性の2020年以降の枠組み
注:赤は今回初。ポスト愛知目標は一部抜粋。*は今後数字が盛り込まれる
(出所:環境省の資料を基に作成」)
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