高木 邦子

新型コロナ感染症の対策で世界銀行のパンデミック債の保険枠が発動される。だが多数の死者を出している欧米の国々は「不適格」。資金の行く先は不透明だ。

 世界銀行は、2017年に発行したパンデミック債による資金提供の検討に入った。

 世界160カ国以上で約52万人の感染者、2万人超の死者を出している新型コロナウイルス感染症(20年3月27日時点)。世界保健機関(WHO)は3月11日にパンデミック(世界的大流行)を宣言。起点となる19年12月31日から12週間が経過したとして、世銀は保険枠の発動に動き出した。

 だが、初期対応による感染拡大の抑止というパンデミック債の本来の目的からすると遅きに失したという印象は否めない。また、8000人超の死者を出し、最も深刻な状況にあるイタリアなどの欧米諸国は「適格国」ではなく、どこに資金が提供されるかは不透明な状況だ。

大災害債の仕組みを活用

 世銀のパンデミック債は、パンデミック発生時に、途上国に感染症リスク対策の資金を提供することを目的にしている。途上国の社会課題の解決に貢献する新しいタイプのESG債として市場の注目を集めた。

 このパンデミック債は、異常気象や大地震などの大災害が生じた際に、保険会社などが大損害を被らないようにリスク分散を目的に発行する大災害債(CAT債)の仕組みを活用している。世銀が発行体となり、普通社債よりも高い利回りを設定する代わりに、ひとたびパンデミックが発生した場合には元本の一部もしくは全額が保険金支払い(途上国への支援金)に充てられる。投資家にとっては、ハイリスク・ハイリターンの金融商品という側面と、ESG債への投資という社会貢献の側面がある。

■ 世界銀行のパンデミックにおける資金調達の仕組み
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 17年に世銀は、パンデミック発生時に途上国を支援する資金として4億2500万ドルを市場から調達した。このうち3億2000万ドルがパンデミック債、残りの1億500万ドルが保険デリバティブ商品による調達だ。市場の関心は高く、パンデミック債については調達目標額の2倍を超える応募があった。

 パンデミック債の募集に当たっては、リスクに応じて2つの募集枠(トランシェ)を設定した。トランシェAは、相対的にリスクが低く、利回り(クーポン)がロンドン銀行間取引金利+6.5%、発行額は2億2500万ドル。全体の7割強を欧州、3割弱を米国の投資家が購入した。特にCAT債を専門とする投資家による購入が目立った。一方、トランシェBはリスクが相対的に高く、利回りが同+11.1%、発行額は9500万ドル。全体の8割以上を欧州の投資家、中でも年金基金が4割強を購入した。

 今回、トランシェBについては元本がすべて保険金支払いに使われ、20年7月の満期時には全額償還されない見込みだ。すでに市場価格は額面の1割程度まで下がっている。

 一方、トランシェAはコロナウイルス事由による支払いが元本の16.67%までに制限されているため、全体の8割程度が償還されそうだ。現在の市場価格は額面の8~9割で推移している。