初期対応に動けず

 自然災害の頻発で世界市場でのCAT債の発行額は増加傾向にある。世銀のパンデミック債は公的機関が発行するCAT債のため、企業の年金基金などは有望な投資先としてその動向に注目していた。まもなく満期を迎えるパンデミック債だが、様々な課題が指摘されている。

 1つは、資金活用の要件(トリガー)の設定が複雑で、機動性に欠けるという点だ。「感染症の発生から12週間が経過していること」と「その時点で感染が依然拡大中であること」の2つを必要とした。しかし今回はそれがネックとなり初期段階に迅速で有効な支援ができなかった。

 もう1つの課題は、対象国の適格要件の設定だ。パンデミックが発生した場合に資金を受け取れるのは、国際開発協会(IDA)の融資適格国。主にサブサハラやアジアの低所得国だ。エボラ出血熱のようにアフリカの途上国などが主な感染地域となるパンデミックを想定しており、新型コロナではまったく違った状況になっている。

 「想定」とはあまりにかけ離れた事態になったが、パンデミックに対応するCAT債の関心は一気に高まった。パンデミック債のニーズは高く、模索が続くだろう。

世銀が敷いた試金石を生かせ
大沢 泰男 氏
SOMPO未来研究所 主任研究員

 世界銀行のパンデミック債に投資家が注目した理由は大きく2つある。

 1つ目は、国際機関が発行するCAT債ということ。地球規模で異常気象や地震などの災害リスクが高まる中、保険会社によるCAT債の発行額は増える傾向にある。その流れの中で登場した感染症リスクに照準を当てた高金利の債券ということで、特にCAT債投資を専門とする投資家の関心が高かった。

 2つ目は、ESG投資家がパンデミック債の社会的な貢献性に着目したこと。資金用途が途上国における感染拡大の抑制に限定されていることを評価した。

 そもそもパンデミック債の発行の契機となったのが、2014年から西アフリカを中心に大流行したエボラ出血熱だ。このときはWHOなどが必要な資金を迅速に調達できず、初期対応の遅れから被害が拡大、1万人超の死者を出した。その反省が世銀のパンデミック債発行へとつながった。

 だが今回、図らずも新型コロナによって想定しなかったパンデミックリスクが顕在化した。グローバリゼーションによる活発な人の移動によって、新型コロナはかつてないほど短期間で感染者が爆発的に増えた。こうした感染症の拡大を抑止するには、パンデミック債は活用要件が複雑すぎた。経過観察期間を短くするなどの改善が必要だろう。

 パンデミック債に投資した投資家にしてみれば、一部または全額が償還されないが、その資金は途上国の支援に使われるのだから前向きに捉えるべきだ。

 今後もパンデミックはある頻度で発生するため、途上国の支援に向けた資金提供の仕組みを持続的に発展させていくことが重要だ。同時に、先進国の経済的損失を補償する仕組みをどうするかという課題も突き付けられた。