岩城 裕一/メディシノバ代表取締役社長兼CEO

新型コロナウイルスの危機に当たり、企業は何を見据え、どんなかじ取りをすべきか。米国在住の医師で大学教授、そして製薬会社の経営者でもある岩城氏が、緊急寄稿する。

 1977年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)への留学を機に米国に渡り、在米生活は43年になります。92年のロサンゼルス暴動、2001年の9・11テロ事件、08年のリーマン・ショックなど、いくつもの“社会的危機”を目の当たりにしてきましたが、今回の新型コロナウイルス流行は、今まで見たこともない大きなインパクトを米国に与えています。

 日米上場企業の経営者として、また現役大学病院医師の立場から今回のコロナウイルス流行について私見を述べさせていただきます。

 2020年3月にカリフォルニア州やニューヨーク州、イリノイ州などで外出禁止令が発令され、食料品の購入や医療機関の受診などの生活に必須な外出を除く全てが規制されました。レストランやジム、映画館も閉鎖。大学を含む全てが休校し、多くの大学はオンライン授業を提供しています。さらに、大手小売りの閉店やレイオフのニュースが続いています。今回は、重症急性呼吸器症候群(SARS)などと違い、地域や人種に関係なく流行拡散しているのが特徴です。中国、イラン、イタリアなどではすごいスピードで感染が広がり、多くの人が命を落としました。

米国では外出禁止令が相次ぐ。ニューヨークのウォール街も人影がまばら
(写真:AFP/アフロ)

収束は最短でも1年の覚悟を

 多くの情報から正しい事実を把握し、的確な状況判断に繋げ、速やかに行動に移すことが最も重要と考えます。受け身の情報収集ではタイムリーな判断ができないと考え、私は毎日米CNNや英BBCをはじめ米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)、米ニューヨーク・タイムズ、などが発信するニュースをインターネットでフォローしています。ツイッターも活用し、米疾病対策センター(CDC)や世界保健機関(WHO)の発信をフォローしタイムリーに情報を得ています。

 経営者としては、過去の事例からパンデミックの経過・収束を予測し、今後の経営・行動計画に組み入れることを重視しています。過去には、1918〜19年のスペイン風邪、57〜58年のアジア風邪、68〜69年の香港風邪、2009〜10年の新型インフルエンザ、14年のエボラ出血熱、そしてSARSや中東呼吸器症候群(MARS)など様々なパンデミックがありました。WHOからの終息宣言は、短いのものでSARSが8カ月後、中には2年近くかかったものもありました。過去の経験から推測すると、今回のコロナパンデミックが6カ月後に終息宣言されるのは難しく、最短で1年、あるいはそれ以上先になる可能性があるのです。パンデミック終焉には相当の時間がかかると覚悟し、経営判断することが重要だと考えます。

 私の専門分野の臓器移植領域でもいろいろ状況が変わってきました。米国でのコロナ感染流行が問題になってきた20年3月初めから大学の臓器移植チームからのアドバイス要請頻度が激増しており、1日に20件に上ることもあります。臓器移植を受けた患者さんは、拒絶反応防止のため免疫抑制剤を服用していて、感染症へのリスクがとても高いのです。化学療法を受けている癌患者さん、基礎疾患がある高齢者の方も同様です。コロナウイルス対策としての隔離や外来受診の指針などの衛生管理上のアドバイスや、免疫抑制剤の調整や感染リスクを検知する検査などの個別のアドバイス、患者さんの免疫力を上げるにはどうするかなどのテーマも議論されるようになってきました。

 当社では、2月21日に在宅ワークへの切り替えを指示しました。通勤途中や会社近辺、社内での感染防止が一番大事と考えたのです。不特定多数と一定時間同じ空間で過ごす機会をできるだけ減少させるという公衆衛生の原則の実行です。

 従来から世界各国の仕事先と電話・ビデオ会議を活用しており、在宅ワークによる業務上の不利益はほとんどないものの、社員が不安を感じずに仕事ができるようにするのが大事です。職種によっては、在宅ワークが難しいものもあるので、出勤時間の変更や勤務時間の短縮、在宅業務などを柔軟に取り入れ、感染リスクを減らす方法を考えるべきと思います。

 様々な制約はしばし続くと考えられます。経営者の判断として、一時的に売り上げが落ちても、「従業員の身体安全」と「ビジネスの継続」を優先しなければならないと考えます。ビジネスの継続という点では、最低でも2年先までの経営資金を確保することが重要だと思います。

 ロサンゼルスの老舗劇場が雇用者のレイオフを発表しました。今回のコロナウイルス流行を受け、早くから劇場閉鎖を決定していましたが、従業員のレイオフの決断も素早いものでした。ニュースを聞き、そこまで事態が深刻なのかと危惧する一方で、「従業員に2週間分の賃金保障と事業再開時の再雇用保障」を明確にしつつ、何より倒産だけは避けるという彼らの素早い決断には見習うべきものがあると感じました。