注目点 2:テーマの重要性

 投資家はESGを重視する運用方針を変えないものの、気候変動か雇用かなど優先するテーマに変更があるかが気にかかる。これに対し、大半の運用会社は「ESGの取り組みは中長期的な問題であり、優先度を変えることはない」と答えた。

社員の健康が投資のテーマに

 ただし、個々の企業と向き合う際には、優先テーマが変わる可能性がある。三井住友トラスト・アセットマネジメントの堀井氏は、「もともとマテリアリティの優先度は産業や企業で異なり、経済環境や事業環境でも変わるもの。短期的な環境変化に対応して事業施策の優先順位は切り替えられてしかるべき」と話す。

 アセットマネジメントOne運用本部株式運用グループファンドマネジャーの矢野淳一郎氏も長期的に「変化なし」とするも、「今後大きな人員削減などがある企業については、長期的成長に向けたリソースの確保を調査する必要がある」と指摘する。

 BNPパリバ証券の中空氏は、「気候変動の優先度が落ちるわけではないが、雇用確保や働き方改革、健康の維持などのテーマ投資が増えるだろう」と話す。特に健康の維持については、新型コロナウイルス感染症の重篤化が基礎疾患の有無に関係すると言われるため、「科学的に説明がつけば投資のテーマになる」(同氏)と言う。

 「海外では新型コロナに関連した措置を支援するため、失業・雇用対策、保健医療支援、中小零細企業支援を目的とするサステナブルボンドが既に発行されている。経済活動の抑制でCO2排出量は当面抑えられると考えられるため、しばらくは気候変動に優先して、こうした分野へのサステナブルファイナンスの比率が高まる可能性がある」(中空氏)

注目点 3:エンゲージメント

 投資家はエンゲージメントの際に、新型コロナが企業にもたらす影響や企業の対応についても質問している。

計画の修正は見送りも

 投資家がまず確認したいのは、従業員の健康管理、在宅勤務の導入状況や工場の稼働状況、サプライチェーンや顧客などステークホルダーへの対応、BCP(事業継続計画)体制の構築などだ。

 米ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズアセットスチュワードシップAPACヘッドヴァイスプレジデントのベンジャミン・コルトン氏は、「長期的に重要なESG項目の改善に強くコミットしているが、少なくとも当面の間は、エンゲージメントにおける対話の内容が長期サステナビリティに関するものから、より足元にフォーカスした従業員の健康、顧客対応や顧客保護、サプライチェーン全体の保守・確保に移ると想定している」と話す。

 さらに詳細な対話を求める投資家もいる。

 フィデリティ投信の三瓶氏は、「事業への影響や環境課題への取り組みの遅延の有無、影響の連鎖を確認する。大前提が大きく変化した環境下での対処、中長期戦略の見直し判断が的確にできているか、経営の執行と監督の責任の重要性を改めて確認している」と言う。

 20年度の計画や中期経営計画をどう修正したらいいか、頭を痛めている経営者は少なくないだろう。三瓶氏は、「20年度の計画は見送り、中計は例えば1年間空白にして、パンデミック後の事業環境を検討し、保守的すぎず、根拠のない右肩上がりでもなく、実効的な戦略・目標を開示する準備をすべき」と言う。

注目点 4:情報開示

 従業員の健康・安全確保や資金繰りと並んで経営者を悩ませているのが、決算発表や株主総会などでの情報開示だろう。危機が長引く様相を呈しており、事業にどういった影響が生じるかを現時点で正確に見通すのは困難を極める。

 人との接触を回避するため監査もままならず、決算発表や株主総会を延期する企業も出ている。金融庁は20年4月17日、3月期決算企業について有価証券報告書の提出期限を通常より3カ月遅らせ、9月末まで一律に延期できるようにした。

 厳しい状況とはいえ、企業にとって新型コロナに関する情報開示は必須であるばかりか、投資家の評価にも影響する。

開示なければ信頼失う

 有価証券報告書や統合報告書などでの情報開示について、「必要」と投資家は口をそろえる。

 フィデリティ投信の三瓶氏は、「19年から有価証券報告書の記述情報の充実が求められている。『事業等のリスク』に新型コロナの影響や対応策について記載しない企業は市場からの信頼を大きく失うだろう」と言う。記載がない場合、「(影響を)把握できていない、対応策がない、予想以上に大きな問題が生じている、などネガティブな連想を助長する」(同氏)。

 「(新型コロナに関する)情報開示は非常に重要。BCPを含めた対応は資本市場でも重要な意味を持つ」(りそなアセットマネジメントの松原氏)。投資家は情報開示を強く要望するが、現状は十分でないという見方もある。事態は刻々と変化しており、「現時点での影響のタイムリーな情報開示が望ましい」(アセットマネジメントOneの矢野氏)。

 国内のある運用会社は、「有価証券報告書の事業の状況で触れる程度であれば意味がない。サプライチェーン・社内・業界への人的・業績インパクトと対応、今後の企業運営の変化といったことを統合報告書で触れてほしい。開示の有無による企業価値算定への影響は限定的だが、企業がどのように対応したかでレジリエンスに対する見方が考慮される」と言う。

 大勢が同じ場所に集まれないという物理的な制限はあるにせよ、デジタル技術を駆使し、社内外から情報を収集することが開示への第一歩になる。