蛭間 芳樹/日本政策投資銀行サステナビリティ企画部BCM格付主幹

コロナショックによって、国や企業の危機管理はどのように変わるのか。世界経済フォーラムのリスク研究チームに所属する蛭間氏に寄稿してもらった。

 2020年4月14日、国際通貨基金(IMF)は、20年の世界経済の成長率予測をマイナス3.0%とした。08年の金融危機時よりもさらに落ち込み、1930年代の大恐慌以来の世界経済悪化の状況下にあるという認識だ。先の見えない危機が続いている。

ESG評価も危機管理重視に

 東日本大震災を機にBCP(事業継続計画)を策定した日本企業は多い。だが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のようなパンデミックは、地震や気象災害などの自然災害とは異なり、地理的な分散戦略が有効ではなく、むしろ早期復旧の足かせになることが明らかになった。また、感染拡大防止のための規制などの影響を受け、需要そのものが蒸発する事態に、特に中小事業者の自助では打つ手なしという現実も顕在化した。

 COVID-19は、コスト削減目的の在庫圧縮に象徴される、効率性のみを追求した経済システムの脆弱性を突いてきた。テレワークはサイバーセキュリティリスクにさらされ、先の見えない「Stay at home」による心身健康面への影響も出ている。

 グローバル・リスクの時代にあって、グローバル化を推進してきた日本を含む世界の先進各国は、COVID-19に対していかにもろい存在であることを露呈した。米国が保護主義を宣言し、自国への回帰行動を企業に勧めていることは読者もご存じだろう。しかし、各国が自国主義や少数国間協調に向かえば、新たな国際秩序と地政学リスクを発生させ、不幸な歴史を繰り返しかねない。

 残念ながら「何を、どこで、生産するのか」の一般解はない。私たちにできることは、気候変動、パンデミック、サイバーテロ、水資源危機、異常気象災害、地政学、格差などのグローバル・リスクを見据えて、時代に即した体制を構築するなど、ステークホルダーから合格点がもらえる最適解を探し続けることだ。今回のパンデミックでより鮮明となったのは、国家であれ民間であれ、都市であれ地方であれ、経済成長の面からも危機管理や安全保障政策の視点が不可欠であるという事実だ。その逆もまた真で、危機管理や安全保障を考える上でも経済成長の視点の重要性はこれまでになく高まっている。

 企業の長期的な成長性に着目するESG評価においても、今後は、危機管理や安全保障の組織ガバナンスが一層注目されることになるだろう。さらに、企業や業界団体の枠を超えて官民で協調し、「何を日本で生産するのか」を、海外のリスク資産の管理と有事対応を含めた危機管理という観点から考えることが、これまで以上に求められるだろう。「何を、どこで、生産するのか? それはなぜか?」という難しい問いかけへの回答が、ESGのテーマとして極めて重いものとなるように思う。

 この危機管理には、またとない機会の側面があることも忘れてはならない。危機という漢字は、危(danger)と機(opportunity)から成る。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のリスクと機会の考え方を適用し実践すべき時だろう。

 下の図は、13年に世界経済フォーラム(WEF)が評価した国別の経済的競争力とレジリエンス力(国家危機管理)の関係図だ。ほとんどの先進国の場合、両者は正比例の関係にある。競争力が高い国は、危機管理・レジリエンス力も高い。同年は金融危機の5年後、まさにグローバル・リスクとしての金融ショックという“危”を経て、国際競争力向上の“機”を得た国々の様子が見て取れる。その中にあって、日本は例外的な存在であり、誠に残念である。

日本は経済競争力に比べて危機管理・レジリエンス力は低いと指摘されていた
(出所:世界経済フォーラム「グローバル・リスクリポート2013」を基に作成)