FINANCIAL TIMES
米ウィーバー・バークスデールの債券ポートフォリオマネージャーで、米コロンビア大ビジネススクール非常勤教授を務めるエレン・カー氏が「緊急事態時のESG」を提案する。
親愛なる社長の皆さん。
新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、ご家族と共に広大な邸宅を要塞代わりに、お変わりなくお過ごしだろうか。
新しいESGガイドライン
私のことは覚えておられるだろうか。会見場で手を挙げて、「従業員に労働組合結成を認めるお考えはありますか」「経営陣を7人のゴルフ仲間以外に広げるおつもりはありますか」といったぶしつけな質問をする目障りなアナリスト。その通り。私は、投資運用会社に勤めるESGアナリストで、実は最近では相当な有名人だ。
そこでせっかくのこの“名声”を利用して、除菌ジェルなみにすっきり明瞭なESGガイドラインを作成したので、試練の時期を過ごされている皆さんにぜひ検討いただきたい。
私が提案するESGの最初の「E」は「従業員(Employee)」だ。出勤することが不可欠な仕事でない限り、従業員は在宅で勤務させるべきだ。ご自分の奥様は4人の子育てで「専業」主婦をしているかもしれないが、だからといって、子供を持つ母親や父親でもある従業員が、子供が自宅学習をしているなか必要なマルチタスキングなどできるわけがないと決めつけないでいただきたい。
休業する場合は時給であれ月給であれ、出勤停止を命じた期間の給与を従業員に支払わなければならない(統合型リゾート運営のボイド・ゲーミン*1さん、どうするのかはっきりしていただきたい。参考までに、同業界のウィン・リゾーツ*2は休業中も有給だが)。
経営破綻が心配なら、自分を無給にすることを検討しよう。そうすれば従業員約300人分の給与が浮くはずだ。さらに、役員も無給にするよう取締役会で丁重にお願いしてみてはいかがだろう。そもそも彼らはトップ1%の富裕層であるからこそ役員のポストに就いているのだ。それに会社の日常業務に対する彼らの貢献は、結局は「お金では買えない」ありがたいものなのだから。
「S」は「せっけん(Soap)」。言うまでもないが、あなたがメーカーなら、せっけんを作ってもらいたい (ありがとうルイ・ヴィトン*3)。

(写真/提供:David Gallard/Louis Vuitton/Abaca/アフロ)
小売業者なら、在庫を確保し、出荷してもらいたい。刑務所ならば買ってもらいたい。同時に、受刑者がちゃんと手洗いできるよう洗面台を修理することもお忘れなく(米国で民間刑務所を運営するコアシビックは、私の「買い」のリストに入った試しは1度もないが、いまこそ脚光を浴びる時だ!)。もし、既に十分足りているなら、買いだめはしないように。
*3 仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンは生産ラインを変更して除菌ジェルやマスク、防護服の生産を開始している