馬場 未希

国やEUに対し、気候変動対策に重点を置く経済再生策を要求。コロナ危機を業界の成長機会にしようと資金の誘導を狙う。

 欧州企業が、政府や欧州連合(EU)が「コロナ後」に動員する経済再生策に注文を付けた。短期では人命保護や医療の維持、困窮する市民や経営困難の企業への経済的支援が急務としながら、中長期では気候変動対策と合致する政策導入を求めた。

鉄鋼は水素インフラ投資を要求

 「パンデミック(世界的大流行)に対処する中長期の政策は、企業の気候変動対策と矛盾してはならない」。ドイツ企業など68社の経営者が2020年4月27日、こんな声明を発表した。

 保険会社アリアンツや、化学メーカーのバイエル、鉄鋼のテュッセンクルップなどが名を連ねた。エプソンやダイキン工業、英蘭ユニリーバといったグローバル企業も賛同した。

 化学や鉄鋼という重工業の参加が特徴だ。中でもテュッセンは声明の際、「CO2排出ゼロ製品の市場と水素経済の確立を中心とする強力な投資が必要」と意見を発表した。別の鉄鋼大手ザルツギッターも「2050年のCO2実質ゼロの実現に必要な水素製鉄技術を確立するため、政策を早急に導入すべき」と表明した。

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ドイツ68社の意見表明(左)と欧州電気事業連盟の意見表明
(出所:ファウンデーション2℃(左)、欧州電気事業連盟(右))

 欧州や日本などの鉄鋼業界は製鉄に使う石炭を水素に替える革新技術の開発を競っている。水素なら製鉄時にCO2を排出しないからだ。だが、世界の鉄鋼業が水素を採用するには大量に安い水素を供給できるインフラ整備に多額の投資が必要になる。

 2社の発言には、ドイツやEUの気候変動政策への共調を示しながら、公的資金や投資を業界のビジネスモデルの脱炭素化に必要なインフラ整備に誘導したい考えが透ける。

 電力も声を挙げた。英国など32カ国の電力業界団体が加盟する欧州電気事業連盟も3月末、各国政府とEUに対し、コロナ後の経済対策に関する3つの要請を表明した。その1つが、「欧州の投資計画と経済回復プログラムが、EU全体の気候変動方針に完全に適合していること」だった。具体的にはEU経済の電化と再生可能エネルギーなどの普及による脱炭素化への支援を求めた。

 欧州企業はコロナ危機を、成長につなぐ機会に変えようと、したたかに声を上げた。その成長を脱炭素経済の構築によって実現しようとしていることに、日本企業も注目すべきだ。