相馬 隆宏

住友金属鉱山は2030年に向けた目標を策定し、全社員へ浸透させる。11の重要課題を掲げ、社会課題の解決と持続的成長の両立を目指す。

 「地元政府と協議の上で操業を再開し、社内サプライチェーンに今後大きな影響が出ることは想定していない」─。住友金属鉱山は2020年5月19日、19年度決算と経営戦略進捗状況の説明会を開催し、野崎明社長が登壇した。新型コロナウイルスによるサプライチェーンへの影響を聞かれ、フィリピンで生産する電池材料のニッケルについてこのような見解を示した。

 当局による規制などで多少の影響は出たものの、操業を停止することなく供給責任を果たせたのは、これまでに地域社会と信頼関係を築いてきたことが大きい。鉱山をはじめ足の長い事業を手掛ける住友金属鉱山は、事業を通じて社会課題の解決に取り組んできた。その活動がコロナ危機で生きた。

「腹落ち」を重視

 同社は、環境保全や人権尊重といったESGに積極的に取り組んでおり、その活動や情報開示の姿勢が投資家などから高く評価されている。20年3月には「2030年のありたい姿」を策定した。08年に策定し、15年に見直した「2020年のありたい姿」が目標年を迎えるのに当たり、10年後のありたい姿を再設定した。

 策定に当たっては国際機関のガイドラインなどを基に89の課題を抽出した。国際金属・鉱業評議会(ICMM)の基本原則や国連グローバル・コンパクトの10原則の他、SDGs(持続可能な開発目標)との関わりを強く意識したのが大きな特徴である。社会や事業にとっての重要度を評価し、「非鉄金属資源の有効活用」や「気候変動対策」など11の課題に絞り込んだ。

■ 「2030年のありたい姿」の主な施策
住友金属鉱山は「2030年のありたい姿」を策定した。「非鉄金属資源の有効活用」「気候変動対策」「生物多様性」「安全・衛生の推進」「ステークホルダーとの対話」「地域社会との共存共栄」「人権の尊重」など11の重要課題を設定し、施策と目標を定めている

 例えば、非鉄金属資源の有効活用では、具体的な施策として権益を保有する銅鉱山の生産体制強化を挙げる。気候変動対策では、「今世紀後半排出量ゼロ」に向けた温室効果ガス削減計画を策定する。

 この他、冒頭で触れた地域社会との共存共栄にも継続して取り組む。現地雇用や現地調達を進め、次世代の育成も支援する。奨学金を設立、給付するなど、働き手がいなくならないようにすることで地域の発展を支える。

 ありたい姿の策定には17年12月のキックオフから20年3月の公表まで2年余りを要した。CSR部会を中心に検討を進め、現場をよく知る工場の社員グループや、10年後に要職に就く若手社員グループも議論に加わった。役員合宿も実施して徹底的に議論した。

 長い期間をかけて幅広い層の意見を吸い上げながら策定したのは、全社員が腹落ちする目標にすることを重視したからに他ならない。

 CSR部CSR担当部長の髙橋修氏は、「策定のプロセスが非常に重要だった。役員やCSR部会のメンバーが自分事として考えてくれた。次のステップは現場の社員に腹落ちしてもらうことだ。ありたい姿は、経営者が勝手にやるものでも、夢物語でもない。社員一人ひとりが毎日やっていることの積み重ねが実現につながっていくことを分かってもらいたい」と話す。

 今後、全社員が納得できるように教育に力を入れる。既に、自社の重要課題とSDGsの関係やありたい姿について分かりやすく説明した冊子を作成した。10年後、理想の姿にどこまで近づけるか。社員の意識の持ちようが鍵を握っている。