相馬 隆宏

アサヒグループはコーヒーやビールの副産物の有効利用を進める。2050年を見据え、新規事業やイノベーションの創出を狙う。

 新型コロナウイルスの影響が世界で広がっていた2020年3月、アサヒグループのある社員は同月発売した新商品を説明するのに忙しくしていた。相手は果物や野菜を栽培する農家だ。この時期は霜の被害が心配され、対策をきちんと取らないと収量の低下につながりかねない。新商品はその霜の発生を抑える効果がある。

 アサヒグループホールディングスは関西大学発のスタートアップKUREi(カレイ、大阪府吹田市)と共同で、液体の凍霜害防止剤「フロストバスター」を開発した。急激な気温の低下で霜の発生が予想される前日に噴霧する。価格は1ℓ入りで2万円(税別)だ。原料にコーヒーかすを使い、アサヒグループの飲料メーカーが工場で排出したものを供給する。19年、1府4県で12の作物を対象に試験したところ、ニホンナシの畑では霜害を最大48%抑えられた。

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霜の被害を防ぐ「フロストバスター」(中)。500倍に希釈して噴霧する(左)。原料にはコーヒー(右)の副産物であるコーヒーかすを使う
(写真:アサヒグループホールディングス)

 従来は、「防霜ファン」や燃焼資材などを利用するのが一般的だった。だが、防霜ファンは設置コストがかかり、燃焼資材は夜中から明け方まで作業しなければならず高齢化が進む農家には負担が大きかった。

 フロストバスターの販売を担当するアサヒクオリティーアンドイノベーションズ新規事業開発ラボの上藪寛士シニアマネジャーは、「例年多くの地域で被害が出ており、大きな社会課題になっている。国内の果樹では100億円の防霜市場が見込まれ、そこでどれだけのシェアを取れるかが勝負になる」と言う。

ぶどうの収量が1.5倍に

 アサヒグループはビール醸造の副産物である「ビール酵母細胞壁」からつくった肥料を17年から販売している。20年6月、グループが製造するワインの契約畑でぶどうの栽培に活用したところ、19年の収量が前年比1.5倍に増える効果が確認されたと発表した。自社畑への使用では病害が減り、腐敗して廃棄した量が6分の1に減ったという。

 アサヒグループホールディングスは19年2月に公表した「アサヒグループ環境ビジョン 2050」で、「環境価値の創出」を柱の1つに掲げる。副産物を有効利用して新規事業やイノベーションを生み出し、持続的成長につなげる狙いである。事業の拡大には用途開発が欠かせないが、高齢化や人手不足といった課題を抱える国内農業の活性化は有効な切り口になる可能性がある。