「攻めのESG経営」に取り組む

――グループのESG経営の特徴は。

長﨑 桃子 氏(以下、敬称略) 19年4月にESG推進室を設置して以来、「守りのESG」と「攻めのESG」に力を入れている。「守り」は非財務情報の開示やエンゲージメントが中心だ。「攻め」では、社会課題に対するソリューションを事業を通じて提供することを目指している。

長﨑 桃子
長﨑 桃子
東京電力ホールディングス 常務執行役 最高マーケティング責任者 ESG担当
(写真:北山 宏一)

 大きな柱は、電化による脱炭素化と、社会のレジリエンシー(強靭さ)の向上だ。私自身はビジネス畑の出身で、事業を通じて競争力のあるソリューションの提供に注力してきた。(20年4月に)現職に就き、新しい事業に加え既存事業をESGへの貢献という切り口で再定義することの重要さを実感している。

 電化は、脱炭素化の切り札となる。例えば東電EPは、住宅向けに蓄電池やEV(電気自動車)、太陽光発電と組み合わせた電化を提案している。住宅の防災にも力を発揮する。また、運輸の脱炭素化を目的に、30年度までに4400台の業務車両の電動化と充電設備の設置を目指し「EV100」にも加盟している。

 社会のレジリエンシー向上では、自治体との協力や産官学の連携など幅広く進めている。一例として防災の分野では、東京都など多くの自治体と協定を結んだり、協議している。

 19年9月に関東地方に上陸した台風15号では大規模な停電が発生し、復旧に時間を要した。この教訓を生かす。停電時も、デジタルトランスフォーメーション(DX)により、どこでどのような原因で発生したかがより精緻に把握できる。迅速な復旧につなげるようにしたい。

――投資家とのエンゲージメントではどのようなテーマで対話しているか。

長﨑 1年半で50件ほどのエンゲージメントを行った。投資家の主な関心はガバナンスと気候変動対策に集中している。エネルギー業界でも比較的、早い時期に指名委員会等設置会社に移行し、社外取締役を迎えるなどガバナンスを強化してきた。

 一方、気候変動ではCO2の総量削減目標を東電単独で持っているかを問われてきた。電力業界全体で共通の原単位目標を掲げて取り組む意義や効果を伝えてきたが、欧州を中心に多くのESG投資家から「業界ではなく東電1社の目標を尋ねている」「原単位や業界の目標は評価しない」と繰り返し問われた。

 そこで、30年度のCO2排出量を13年度と比べて半減する目標を設定した。具体的には、顧客に届ける電気の、発電時のCO2排出量を50%以上減らす。20年秋発行の統合報告書にも掲載する。50年目標も現在検討中で、21年度以降の決定となるだろう。グループの電源のCO2削減に加え、顧客の省エネも促して達成を目指す。

――目標の7000万t弱までどう減らすのか。原発1基のCO2削減量は年間約280万tで、柏崎刈羽原発の7基が再稼働すれば手も届くが簡単ではない。

長﨑 昨今の情勢から何基とは言えないが原子力と再エネの比率を高める。(20年3月まで常務を務めた)東電EPでは再エネ電気を購入したいとの要望が多くの顧客から届いており、水力発電など再エネ由来の電力販売メニューの提供が拡大している。

静岡県にある最大出力1万8370kWの東伊豆風力発電所<br><span class="fontSizeS">(写真:東京電力リニューアブルパワー)</span>
静岡県にある最大出力1万8370kWの東伊豆風力発電所
(写真:東京電力リニューアブルパワー)

――石炭火力発電はどうするか。

長﨑 火力事業のJERAと、株主として、または電力を調達する企業としてどう話をするか。「関与しない」というスタンスにはなれない。

――CO2の総量削減を求める海外投資家や企業の声はそれほど強いのか。

長﨑 当社の海外投資家比率は低くない。海外の同業企業と比較しやすい情報開示も求められている。

 我々が販売する電力のCO2排出を削減することは、顧客の脱炭素化に貢献する。再エネや非化石証書を生かした低CO2電力販売メニューがないと提案が膠着して前に進まない。私は、顧客企業の総合窓口に相当する部署も所管しているが、原単位や業界単位の目標だけを口にしていては顧客から相手にされない。新目標は、顧客との関係にプラスに働く攻めのESGの一環とみている。