「投資家視点」なき親会社

 同社が打ち出したガバナンスは機能するのだろうか。グループガバナンスに詳しい東洋大学国際学部グローバル・イノベーション学科の毛利正人教授は、「子会社を管理・監視することに主眼が置かれており、親会社の関与を強めようとする姿勢が感じられる」と評価する。

 その一方で、管理と監視に偏ったガバナンスには危うさもあると指摘する。「グループガバナンスでは、本社による監視だけでなく、子会社の組み換えや支援がないと逆効果になりかねない」と話す。

■ 三菱マテリアルのガバナンス強化策
「ガバナンス統括本部」を発足し、事業部門や子会社のガバナンスを管理する。また、監査役会を支援する監査役室の室員が、子会社の監査役を兼務する。グループ全体の相談窓口も設置
出所:三菱マテリアルが発表した強化策より本誌作成

 子会社の組み換えは、不採算事業から撤退し、競争力のある事業に経営資源を集中するように子会社を組み換えることだ。支援は、成長分野を担う子会社に対して経営資源を集中的に配分することである。

 毛利教授は、グループガバナンスでは、「投資家視点」がポイントになると助言する。投資家からガバナンスを「受ける」だけでなく、子会社に「効かせる」必要がある。親会社には、長期的な株主として子会社の企業価値を高めていくという意識が欠かせない。

 親会社よる子会社の再編は、投資家による投資ポートフォリオの組み換えに相当する。子会社と成長戦略を共有し、成長できる子会社に投資を振り向ける。短期的な収益目標だけでなく、長期的な成長につながるESGの視点を持った子会社の管理が重要になってくる。

「あうんの呼吸」にリスク

 日本企業の子会社に対するガバナンスは、子会社の自主性に任せているケースが多い。子会社が定められた売上目標を達成していれば、親会社は細かいことを言わない。

 親会社を分割して設立した子会社は、経営思想や価値観、行動様式などが共通しているため、グループ経営に関する規定を定めず、組織の慣例に基づいた経営が実践されているケースが多い。日本総合研究所の山田英司理事は、「親子間の暗黙知に頼ったグループ経営にはリスクが潜んでいる」と警告する。

 M&A(企業の合併・買収)で経営はグローバルに広がっており、海外企業の買収や現地法人による幹部採用などが進んでいる。こうしたケースで「暗黙知」は通用しない。山田理事は、「グループ会社の特性に応じた権限委譲や子会社社長の選解任ルールなどを明文化し、あうんの呼吸による子会社ガバナンスから脱却する必要がある」と話す。

 富士ゼロックスの海外販売子会社で不適切な会計処理が発覚した事件や、東芝子会社だった米ウエスチングハウスの損失隠しなど、海外子会社の不祥事リスクが相次いでいる。投資家は、親会社だけでなく子会社を含めたグループ全体のガバナンスに注目している。

 三菱マテリアルのガバナンス強化の成否は、同社グループ再生の鍵というだけではない。万一、再び不正が発覚したなら、日本企業全体のグループ経営に対する不信感が海外投資家などに広がりかねない。

 グループ経営を実践する多くの日本企業にとって、同社の不正は他人事ではない。子会社による不祥事リスクを点検し、グループガバナンスの再構築が必要である。