SDGsは「事業展開ツール」

――マテリアリティとSDGs(持続可能な開発目標)の関係は。

松倉 肇
NEC 取締役 執行役員常務 CSO(最高戦略責任者) CHRO(最高人事責任者)
1985年4月にNEC入社。マーケティング企画本部長、事業開発本部長代理、経営企画本部長、NECマネジメントパートナー社長などを経て、2017年4月にCSO就任、2018年4月から現職(写真:中島 正之)

松倉 KPIの設定で悩んだのが、SDGsとの関わりだ。事業それぞれにSDGs目標を対応付けるのは簡単だ。しかし、貢献する目標を絞り込むことには違和感を覚えた。単なる対応付けは、事業展開の領域や製品・サービスが提供する社会価値の可能性を自ら狭めかねないと思ったからだ。

 例えば、「都市の安全」は主に目標11に該当するが、企業やNGO(非政府組織)などのパートナーとの共同によって、他のSDGs目標にも貢献できる。そこで、9つのマテリアリティそれぞれについて、「NECが主体的に貢献するSDGs目標」と、「パートナーと共同で実施することで今後貢献が見込まれるSDGs目標」のそれぞれを定めた。

 NECの事業領域は幅広く、展開しやすい。自社の技術やノウハウを従来とは異なる領域に展開したり、新しいパートナーと組んだりすることで、全く新しい製品やサービスを生み出す。SDGsはそのためのツールとして使うという発想だ。

 もともとNECは良質な電話網を日本に普及させることを目的として創業した公共性の高い企業だ。2013年には「社会価値創業型企業への変革」を打ち出している。SDGsの考え方とは親和性がある。

 一方、発想の転換が必要だったのが、「価値を提供する」という考え方だ。NECの強みはネットワークとコンピューターの技術を持っていることだ。ただし、これらの「機器」を提供しようと考えると、事業の発展も広がりもない。今回のマテリアリティの特定では、どのような「価値」を提供できるかを徹底して議論した。今は様々な会議で、「それはどんな価値を提供しているのか」という質問が飛ぶようになった。

――新たなマテリアリティやSDGsを踏まえた事業を実践するには、企業文化の改革や人材育成も欠かせない。

松倉 どんな戦略をつくっても実行が伴わなければ意味がない。そのための人事戦略を2018年度の最重要課題に位置付けた。4月に企業文化の変革をリードする専門組織「カルチャー変革本部」を立ち上げ、日本マイクロソフトなどで人事部門の責任者を務めた人材を本部長に据えた。

 まずは上が変わる必要がある。経営陣の責任と権限を明確にし、目標や成果を社長にコミットメントするようにした。報酬制度も、目標の達成度合いや実行のスピードなどを加味したものに変えていく。

 社長の新野隆は現在、全国の工場や事業所を行脚し、社員と対話を続けている。議論のやり取りは記録して公開し、実行すべきと判断したことはどんどん進めていく。とにかく風通しを良くし、新しいことに挑戦する文化を醸成する。

 今の働き方改革は、生産性を上げることだけに目が向きがちだ。そうではなく、社員のやりがいや自信を企業の成長につなげていく。