大手企業が次々と導入を表明するジョブ型雇用。背景には、年功的な処遇では優秀な人材を獲得できないという日本型雇用の限界、そしてテレワーク環境においては職務範囲、職責・役割を明確にしたうえで自律的に働くことが求められるという事情がある。一方で予期していなかったイレギュラーなタスクが「ポテン・ヒット」となり、誰も手を出さなくなるといったリスクもある。

(写真:123RF)

 「ジョブ型雇用」導入の動きが広がっています。毎年、経団連が春季労使交渉に先立ち、その交渉指針として示す「経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」において、2020年には従来型の人事システムである「メンバーシップ型」と欧米流の「ジョブ型」の組み合わせが提起されました。これと前後して、日立製作所、富士通、KDDI、三菱ケミカルなどが相次いでジョブ型雇用の導入に着手するとの報道が行われています。折しも、新型コロナウイルス感染症の流行で一気に広がった在宅勤務・テレワークにより、自律的な働き方として「ジョブ型雇用」に一層の注目が集まっています。

 もっとも、実は日本の雇用の歴史をひもとくと、「ジョブ型」「職務型」など言葉は違えども、欧米型の「はじめに仕事ありき」の仕組みの導入は何度も試みられ、必ずしも思う通りの成果を挙げてきませんでした。約20年前のいわゆる成果主義ブームもその一例で、それには様々な批判がなされました。今回も同じ轍を踏むことになるのでしょうか。

 本コラムでは、5回にわたって、現在広がりつつあるジョブ型雇用導入の背景にある要因とその注意点を、過去の経験を振り返りつつ、国際比較の観点から解説していきたいと思います。それを踏まえ、わが国でジョブ型雇用導入を今回こそ成功させるための条件を考察していきます。第1回は、「なぜ今ジョブ型なのか」を、テレワーク導入にあたっての課題と絡めながら考えます。

メンバーシップ雇用に限界、経団連会長が言及

 今回のジョブ型雇用導入の流れを生む一つの源になったのは、中西宏明・経団連会長の意向でしょう。今から約2年前、2018年9月3日の定例記者会見で、「終身雇用制や一括採用を中心とした教育訓練などは、企業の採用と人材育成の方針からみて成り立たなくなってきた」と発言し、就活ルール廃止の可能性について言及しました(注1)。

 これをきっかけに、新卒一括採用の見直し議論が盛り上がり、産学協議会が設置されました。さらに、2019年5月7日の定例記者会見で、中西会長は「終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている」と発言し、日本型のメンバーシップ雇用の抜本的な見直しを示唆しています。この延長線上に、冒頭で触れた通り、2020年1月に公表された「経労委報告」では「メンバーシップ型」と欧米流の「ジョブ型」の組み合わせの検討が提起され、さらに中西氏が会長を務める日立製作所は2020年3月、「ジョブ型人財マネジメントへの転換とそれに伴う新たな採用コースの導入」を公表しました(注2)。

 こうした背景には、日本のグローバル企業が直面している厳しい経営環境の変化があります。とりわけ、デジタル関連やエレクトロニクス関連の産業では、グローバル市場が一体化するなかで、技術変化の流れも加速し、事業の改編をスピーディーに行うとともに強固な競争優位を確立していかなければ、生き残れない時代が来ています。そうしたなかで、終身雇用を維持することが難しくなっているのは事実であり、競争優位性の源である優秀な人材を年功的な処遇では獲得することはできません。新卒採用市場でも、トップクラスの学生は自ら起業したり、職種が選べ、若い時から大きな仕事ができる外資系コンサルティングを選んだりする傾向が強まっています。こうした状況を踏まえれば、職務内容をあらかじめ決めて採用する欧米流のジョブ型雇用が、今の環境変化にフィットしているといえるのです。