
大手企業で導入が広がりつつある「ジョブ型雇用」ですが、その本家本元である欧米では、どのような仕組みになっているのでしょうか。わが国の就社型雇用(メンバーシップ型雇用)と対比させて解説しましょう。
基本的な原理として、日本流の就社型雇用は「はじめに人ありき」で、特定企業のメンバーとして採用されたのちに、具体的な仕事やポストが与えられます。一方、欧米流のジョブ型雇用では「はじめに仕事ありき」で、具体的な仕事(職務)を特定したうえで、労働契約を結びます。日本流はまさに「就社」であり、欧米では文字通りの「就職」となるわけです。
こうした基本的な原理は、「仕事遂行に必要な能力育成の仕組み」および「事業環境の変化で既存の業務が不要になったときの対処法」の違いに反映されます。わが国での職業能力育成は、一部の職種を除けば、基本的には入社後のOJT(現任訓練)が中心になっています。学校教育では基礎的・汎用的な能力を身に着けることが基本で、個別具体に職務遂行に必要な能力は、企業に入ってから身に着けるのです。
25歳超えても大学生、学校教育で職業能力を高めるドイツ
一方欧米、特に欧州では、学校教育の段階で具体的な職業能力を身に着ける仕組みが整備されています。例えばドイツでは、高校段階で現場技能系か知識労働系の進路が分かれ、前者の場合は座学と企業実習がセットになった「デュアルシステム」と呼ばれる教育を受けることになります(注1)。
知識労働系のコースはギムナジウム(中等教育機関)を経て大学に進学します。大学卒業後に企業に入るには、それまでにインターンシップやアルバイトを経験するのが通常です。インターンシップも数カ月から半年に及ぶものが一般的で、学生にすれば正規雇用につながるチャンスなので、必死になって仕事を覚え、成果を上げようとします。企業もそうした実務経験を見て、特定職務をこなすのに十分な能力や経験がある人物を採用するのです。こうしたこともあって欧州の大学では、25歳以上の学生がかなりの数います。卒業要件が厳しいことが影響していますが、授業料が安価なため、就職先が見つかるまで学生の身分でいる人もいるからです。
就職した後もスキルを高める「継続教育」の仕組みとして職業資格制度が整備されています。資格は職種ごとに商工会議所や手工業会議所が管轄し、会議所内に設けられた試験委員会が資格を付与します。学校教育レベルとの連動も図られており、「修士」レベルの資格があり、このレベルで組織内でのマネジメントレベルで必要とされる多様な管理能力が問われます。こうした資格制度の存在が、大手、中小といった企業規模を問わず、従業員は働きながら技能・スキルを向上させることを可能にしているのです。
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