そもそも日本企業はなぜジョブ型雇用を導入するのか。「品質力」に比べて弱かった「革新力」の強化が狙いだが、革新力のために社内の既存秩序を一気に破壊すると、既存の収益基盤が弱体化するという落とし穴が待ち受けている。
(写真:123RF)

 前回まで、日本流の就社型システムが環境変化に合わなくなっていること、その一方でこれまで何度も欧米流の「ジョブ型」の導入が図られてきたことを見てきました。そして、ジョブ型雇用を導入するには様々な前提条件があり、それへの目配せが十分でなかったため、所期の効果が上がらなかったことを確認しました。今回と次回で、わが国の現状を踏まえたうえで、いかにすればジョブ型雇用がうまくいくのか、その成功の条件を探っていきます。

 まず大事なのは、そもそも雇用システムを何のために見直すのかを、明らかにすることです。「日本流がうまくいかなくなったので、うまくいっていそうな欧米流を導入する」では理由になりません。最大公約数的に言えば、「企業の成長と従業員の幸福を実現するため」ということになるでしょう。ただし、これではあまりにも抽象的過ぎます。様々な目標があるでしょうが、筆者は、社会全体としてイノベーションを持続的に生み出していけることが、雇用システムに求められる少なくとも不可欠な要素だと思います。

「革新力」と「品質力」、バランスのジレンマ

 しかし、ここでもイノベーションという言葉が曖昧です。そこで、経営学の知見を使うことにします。各種メディアで積極的な情報発信をされている入山章栄早稲田大学教授によると、世界の経営学で最も研究されているイノベーションの基礎理論として「両利きの経営」があります。新しいことを模索する「知の探索」と、既にあるものを洗練化する「知の深化」を高い次元でバランスさせることが、イノベーションに重要だというものです。より直感的に言い替えれば、「革新力」と「品質力」の融合が企業に競争力を生み出すと言っていいでしょう。

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 この観点からすれば、日本企業の多くは「品質力」に優位性を持っており、「革新力」に相対的に劣る、ということになるでしょう。ここで、日本的な雇用システムは「Make」型で、長期継続勤続を奨励してきたため、組織でノウハウが蓄積され、品質力の向上に大いに貢献してきました。一方、外部人材の取り込みやその登用には組織的な限界があり、革新力が劣る状況が続いてきたといえるでしょう。こうしてみれば、革新力を高めるために、欧米型の外部人材を活かしやすい「Buy」型のジョブ型システムの導入が要請されている、と言えましょう。

 しかし、ここに落とし穴があります。確かに将来の方向性という意味では、革新力を高めることが必要とはいえ、現状の成長力の多くは品質力に依存しているのが実情です。とりわけ歴史が長く多数の従業員を抱える大手企業では、既存事業でこれまで磨いてきた品質力とそれに基づくブランド力が、収益の大半を生んでいるといえます。このため、革新力のために社内の既存秩序を一気に破壊すると、既存の収益基盤が弱体化し、革新力の追求どころではなくなってしまうのです。もちろん、成長分野の新興企業では状況が違うでしょう。しかし国全体で見れば、既存事業分野での品質力の向上が多くの富と雇用を支えている事実を無視できません。

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