企業経営には欠かせない予算管理。しかし運用が厳格過ぎて、予算超過または予算未達にペナルティを与えるような会社においては、社員に架空発注のような不適切な行為を起こさせることがある。コロナ禍のような大きなかく乱要因がある時期には、特に注意が必要だ。

(写真:123RF)
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 例年、年が明けるととても忙しくなる。弊社の場合、1月~3月にかけてはコンプライアンス研修やリスク評価の依頼が多く舞い込むのが常だ。この理由は皆さんもお分かりの「予算消化」である。予算消化というのは、年度初めに各セクションに割り振られた予算を、年度内にすべて使い切ろうとする活動のことを指す。多くの会社の年度末は3月だから、1月~3月に予算消化活動のピークが来るわけだ。

来年使いたいのに使えない、予算のジレンマ

 余っている予算は、使う必要性が低いから余っているのであって、本来であれば無理に使う必要はない。むしろお金が不足するセクションに回してそこで使ってもらうか、使わずにキープしておくほうが良いのだが、なかなかそういうことにはならない。

 予算獲得の際に、「必要なのでください!」と言って確保した予算が使われないということは、そもそも必要だというのが嘘であったということになる。これではその管理職やセクション自体の信用を落としてしまう。そして、そのお金は実は不要、ということになり、来期の予算では確実にその分が削減される。そのような状況は誰も望まないので、年が明けるころには、予算消化のために以下のような会話が各所で繰り広げられるのである。

部長 販促予算がかなり余っているなあ。
課長 そうなんです。いまのところの消化率は約5割です。
部長 なぜこんなに使ってないの?
課長 部長、何をおっしゃいます。下期に大型の新商品発売が予定されていたので、そのために使うはずだった予算じゃないですか。
部長 おおっと。そうだった。ごめんごめん。でも困ったな。コロナの影響もあって新商品の発売は来期に持ち越しになってしまった。筋から言えば、新商品分の予算も来年に持ち越すべきものだが。

課長 でもうちの会社で予算の繰り越しは認められるのですか。
部長 そうなんだよな。困ったことに君も知っての通り、うちの会社は予算を厳格に守ることがとても重要なこととされている。もともと経理部門が強くて、厳格な数値コントロールで成長した会社だからな。
課長 予算をオーバーしたらペナルティを受け、予算を余らせてもたっぷりと叱られると、聞いたことがあります。
部長 そうだ。そして予算の来年度への繰り越しという概念がない。

課長 どうしましょう。今年の予算は使わなければいけないわけですね。そうは言っても新商品の発売は来年度です。発売されたら新商品用の予算を増額してくれるのでしょうか?
部長 それはまずない。
課長 となると、今年に予定していた新商品の販促予算をどこかにプールしておかなくてはならないのでは?
部長 と、いうことになるな。

課長 ABC総研にお願いしてみましょうか。どうせ来年も市場調査をしてもらうことになるので、まずは今年度中に残予算を全て使った調査依頼の発注をして、それなりに体裁だけ整えてはいるものの、実際には中身がない調査報告書を納品してもらいます。そして来年のしかるべき時期にこんどは簡単な調査を極めて安価に発注して、その際に、本来の調査報告書を出してもらうという方法です。
部長 そうだな。どうぜ来年もABC総合研究所にはいろいろやってもらうから、お金の先払いということで。

課長 本社の購買部門は調査の中身までは見ませんからね。報告書の分厚さと体裁だけ整っていれば大丈夫です。
部長 じゃあ、そうしてみよう。でもABC総研は嫌がらないかな?
課長 この不景気のなか、これだけの大型受注を嫌がる会社なんてないですよ。
部長 そうだね。問題にならないことを願うよ。予算の繰り越しさえさせてくれればこんなことをしなくて良いんだけどなぁ…。