M&A(合併・買収)やダイバーシティの推進によって、異なる価値観をもった社員が一緒に仕事をするケースが増えている。こうしたシーンでは、自分が普通だと思っている言動が、相手にとっては非常識でパワハラだと映るケースも少なくない。このような状況を改善する秘訣に迫る。

(写真:123RF)
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 この間まで他人であった者どうしが図らずも一緒に仕事をするようなシーンが増えている。意思決定の基準や仕事の進め方などが違うために、いろいろな苦労が発生するのだが、そんな会社ではパワーハラスメントの解釈を巡っても、ちょっとした文化摩擦が起こることがある。

文化が大きく異なる企業が合併すると…

 以下は、ある会社の人事部内での会話である。この会社は、約2年前に同じ業界内のA社とB社が合併して誕生。部下の佐藤氏はA社、課長の田中氏はB社の出身だ。

佐藤 田中課長、困りました。パワーハラスメントの相談件数が今年に入ってからどんどん増えています。
課長 なんで? パワハラに注意すべしという通知をもう何度も出しているじゃない。
佐藤 逆に、そうした通知がパワハラへの関心を高めたのかもしれません。
課長 いったい、どんな相談が増えているの?
佐藤 これが、実は言いにくいのですが…。
課長 言ってみて。
佐藤 相談窓口からの報告では、元A社の社員から元B社の上司へ。そして元B社の社員から元A社の上司に対するパワハラ行為の相談が全体の7割程度を占めているとのことです。
課長 なにっーーー。そんなアホなことがあるのか。いったい、どうなっているんだ!

佐藤 相談窓口からの報告は、個人情報を排していますので詳しいことまではわかりませんが、元A社の社員から見ると、元B社の方はすぐ大きい声を出して、ぶっきらぼうで体育会系で、問答無用の命令口調で…。
課長 なにー! それ、俺にケンカ売っているのか! あ、いや。でも、そうね。
佐藤 あ、はい。あくまでこの資料によると、です。一方で、元B社の人から見ると、元A社の上司は、個人のプライバシーにまで介入し、ネチネチしていて陰険で、こそこそ悪口を言って、日常的に嫌味を言うとのことです。
課長 あら、まあ…。でも、そうかもしれんな。一緒になって1年半がたち、人事交流を活発化させ始めたから、たまっていた不満が表に出てきたのかも。
佐藤 合併そのものへの否定にならなければいいんですけれども。

課長 「業界の暴れん坊」といわれたB社と「お公家さん」と呼ばれていたA社の結婚だから、まだしばらく摩擦も大きいだろう。ところで、パワハラとしては、どちらの方が悪質になるの? やっぱり大声を出して命令する方?
佐藤 個別のケースによるのですが、元B社の人が大声で威嚇するのも、元A社の人がプライバシーを侵害してネチネチと嫌がらせするのも両方ともパワハラになり得ます。
課長 まいったなぁ。俺のようなB社出身の人間からしたら、別に嫌がらせをしようと思って、大声を出しているわけでもなければ、問答無用で押し付けているわけでもないんだけどな。まぁ、これが普通というか…。どう思う?
佐藤 はい…。でもA社出身の私としては、本当のことを言うと田中課長のコミュニケーションスタイルに慣れるまで半年くらいかかりました。
課長 え!? 半年も!
佐藤 はい。そのくらいたって、やっと別に怒っておられるわけではないのだとわかりました。最初のうちは、会社に来るのも怖かったです。
課長 あら、まぁ。ホントかいな。
佐藤 きっと、A社出身の私から見ると、元A社の上司も別にプライバシーを侵害しているわけでも、陰険なわけでも、嫌味をいっているわけでもなく、たんたんと必要な情報を収集し、言うべき事実を指摘しているだけだと思いますよ。

課長 おぉ。ということは、これはハラスメントというより文化摩擦ということになるな。
佐藤 はい。したがって、まずはどのような言動がハラスメントになるのか、しっかりと知ってもらうこと。そして、元A社も元B社も自分が無意識にやっているコミュニケーションが下手をするとハラスメントと見られかねないことを理解してもらう必要があります。
課長 そうだな。そして、もう一つはバックグラウンドの違う者が一緒になっているわけだから、不快に思うようなことがあったら率直に話をして、お互いの誤解を減らしていくようにすることだな。
佐藤 はい。最近はいろんな業界からのキャリア採用もしてますし、外国人の採用も普通になってますから…。元A社と元B社だけの話ではありません。うちもずいぶん多様化してるんですよ。
課長 おぉ。パワハラ防止をきっかけに、互いを尊重する働きやすい会社づくりをしよう! 俺も気をつけるわ。