「李下に冠を正さず」の姿勢が大切

 上記の会話の中にも出てくるように、接待には心理的なテクニックが駆使される。本ケースで紹介した「フット・イン・ザ・ドア」(注)は、小さな要請から始めて、関連する大きな要請を最終的に承諾させるというやり方のことである。家の中に一歩でも足を踏み入れることがまずは重要で、そこまでの承諾が得られれば商品を売ることも十分可能になることが、この名前の由来である。

 「返報性のルール」(注)は、人間は、親切や贈り物、招待などを受けると、そうした恩恵を与えてくれた人に対して将来お返しを “せずにはいられない” いう法則性のことである。したがって、何度も借りを作ってそれが蓄積すると、相手から頼まれたときに断れないのである。

(注)これらの様々なテクニックは、古典的名著『影響力の武器』(ロバート・B・チャルディーニ 著、誠信書房)に詳しい

 接待をする者は、こういったテクニックを駆使して、官僚や民間企業の意思決定者を篭絡しようとする。接待を受ける当人は情報交換のつもりでも、知らず知らずのうちに特定の会社に手心を加えるように仕向けられるのである。したがって、責任のある者はこのような心理的なテクニックを知っておき、相手の罠にはまらないように注意することがとても重要なこととなる。

 狭義のコンプライアンスにおいては、違法性があるかどうかが問題となる。しかし、幸せな会社員生活を送るには、たとえ違法性がなかったとしても、“特定の企業とベタベタな人”と認識されることは、出世や仕事上の大きな障害になる。「李下に冠を正さず」の姿勢を続けることは、あなたの評判とあなたの将来を守るのである。

(監修)浅見隆行 弁護士(アサミ経営法律事務所)