社内外にどこまでの情報公開をすべきかの再検討が必要

 多くの会社では現在、できるだけ多くの情報を社員に公開して企業活動を円滑に行おうとしている。これは一般的には素晴らしいことである。しかし、特に上場企業の場合、インサイダー情報の拡散を防ぐためにその情報を知る人を限定することが求められることがあり、その際に会社の情報公開ポリシーと摩擦を生じることがある。なかでもM&Aに関する情報は最も重要な秘密情報の一つである。したがって会社としては慎重に情報を取り扱おうとするものの、普段からいろいろな形で情報公開が行われていると、ちょっと勘のいい人(鈴木さんのような人)は公開情報のいくつかを組み合わせて、会社の異変に容易に気付くのである。

 例えば、会議室の予約状況、役員や経営幹部が誰に会っているかといった対人関係の情報、来客者の情報などが開示されていれば、重要なことがかなり確実に推測できる。それでは困るということから、普段は何でもオープンにしている会社が秘密主義に転換したら、それはそれで何か重大なことが起こっていることを示唆することになる。勘の良い鈴木さんのような人は会社にいくらでもいるし、そのような人が人間関係を使って関連当事者である佐藤さんのような立場の人に問いただせば、よほど巧みに逃げる方法を知っている人でない限り、秘密を完全に守ることができなくなってしまう。

 もちろん、関連当事者の立場になる人(佐藤さん)には何が守秘義務であり、聞かれた際に上手に逃げる方便(「あれは、定期的にやっているリスクの洗い出しのプロジェクトだよ」など)を教えておくことなどは重要であるし、鈴木さんのような一般の社員にもインサイダー取引について基礎から学習してもらう必要はあるが、それとともに、社内外に対してどこまでの情報公開をすべきか再検討しておく必要がある。

 会社の受付にいくと、来社の記録をシートに書き入れなければならず、その際に併せてどこの会社の人が何人来社しているかが明確にわかる会社もある。受付の人が周囲にもわかるように「〇〇社の〇〇様、お待ちしておりました」と呼んでくれるところもある。社外の人にまでそのような情報を平気で開示しているのは、これまで大きな問題が起こっておらず、オープンな社風を維持できているのだろうと好意的に解釈することはできるが、そうはいっても、情報を無防備にさらしすぎともいえるだろう。今後、起こりうる“もしも”に備えて、社内外に対して、明らかにできる情報は何で、何は秘密にしておいた方がよいのか、この情報は誰にどこまで開示すべきなのかといったことをもう少し慎重に考え直しておいた方がよいだろう。

(監修) 浅見隆行 弁護士(アサミ経営法律事務所)