取引先と共謀して、実際に上乗せした金額を自社に支払わせ、その増額分を受け取る行為を一般的には「キックバック」と言う。今回は、キックバックを行った場合のコンプライアンス問題を考える。
(写真:123RF)
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 普通の会社員が起こすコンプライアンス問題のうち、自分の会社に損害を与えるキックバックは、とくに注意しておくべき行為です。下手をすると、ほとんど罪の意識がないまま、犯罪者になってしまう可能性があります。以下は同期2人の会話です。

佐藤 ちょっと工事部がまずいことになっているらしい。知ってる?

田中 何かあった?

佐藤 工事部の数人が複数の取引先と結託してキックバックをもらい、私腹を肥やしていたというんだ。

田中 えー、ほんと?

佐藤 下手をしたら被害額が数億円になるらしいよ。

田中 うそでしょ。うーん。でも、なんか工事部の連中、最近、ちょっと羽振りがよかったような。

佐藤 そうだろう。

田中 具体的には、どんな手口なんですか?

佐藤 話としては単純。たとえば工事の適正な発注額が2000万円だったとする。でも取引先からは2300万円の見積もりを出してもらいその額で発注して、実際に工事もしてもらう。そして終了したら会社は2300万円払う。

田中 で?

佐藤 で、そのとき、取引先と工事の発注担当者が裏で組んでいて、その300万円のうちの全部とか半分とかが担当者の個人口座に振り込まれる。現金手渡しというのもあったらしい。実際にいくら振り込まれるかは、そのときの話の成り行き次第だろうけども。

田中 と言うことは、取引先は工事部の担当者にいわゆる賄賂を送って、取引を確実なものにして、工事部の担当者はその見返りにその取引先を選択したということですね。そして、被害者はうちの会社になると。

佐藤 そう。本来よりも300万円高く発注をしたわけだから、損したのはうちの会社ということになる。

田中 でも、たとえば15%も高く発注したらおかしいと思われませんか? それに、そもそも工事の発注の際には、かならず他の複数の会社と競争させて比較したうえで発注先を決めるというルールになっているはずでしょう。

佐藤 そうなんだよ。建前上は。

田中 えーー。実態は違うと。

佐藤 いや競合との間で形式的な競争はさせるんだ。ただ競合の間ですでに話はついていて、入札価格も調整済み。発注担当者は裏でつるんでいる数社にだけに声をかけ、形式的に競わせて、すでに決まっている発注先を選ぶ。決まっている会社が一番低い価格を提示するからね。発注者は、競わせる企業を限定するだけで、個人の懐に自動的にキックバックが入るという夢のような仕組みになっているわけだ。

田中 うわー。すごい。でも、取引先の会社たちはそれでいいんですか? 普通に競争したいと思う会社もあるように思いますけども。

佐藤 それが、そうでもないらしい。普通に競争入札すると競合間で叩きあって低価格になって利益が出なくなってしまう。そうすると誰も儲からなくなるので、こっちのほうが良いと。

田中 となると、損をしたのはうちの会社だけということですね。でも、こんな話はどうやって発覚するのですか? うちの会社では、正当な取引としてすでに経理処理されてるはずですよね。

佐藤 たしかに……。税務署がどうのこうの…とか言っていたなあ。

田中 ……どうなっているんだろう。