本ケースのコンプライアンス的問題とは?

 キックバックによって会社に損害を与えると詐欺罪や業務上横領罪、背任罪になる可能性があります。このケースでは、受注側が談合のうえに価格調整を行っており、しかも競合間で受注を割り振ることからバレにくい仕組みが構築されていました。

 このようにキックバックで社員が不当に懐を肥やしていた場合、会社はどのような対応をするでしょうか。一般的には、人事上の対応として、懲戒解雇、そして被害に対する損害賠償請求、さらに刑事告訴の3つの手段で対応します。そして刑事犯罪としては、詐欺罪として10年以下の懲役。業務上横領罪では10年以下の懲役。背任罪は5年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっています。キックバック額が大きくなると、初犯であっても実刑判決が出ることもあります。さらには、現在の会社は経営に透明性が求められているので、このような行為があったことを一般に公表するようにもなっています。自分の関わった事件が社会に公表されるのです。

どのように巻き込まれるか

 このキックバック。いったいどのような経緯で始まるのでしょうか? 最初からキックバックをやろうと思うような人は滅多にいません。しかしながら、実際にはキックバックの案件がしょっちゅう新聞やネット上をにぎわしています。

 キックバックは、ほとんどの場合、取引先のほうから声をかけます。それなりの人間関係ができた後に「次回の入札ですが、対象をうちと〇〇社、××社の3社にしてくれませんか」といった、ただちに違法行為とはいえないような依頼をしてきます。「それだけしていただければ、ささやかなお礼をさせていただきますので」と。

 その3社に絞ることが特別に不思議でないような状況下にあっては、不用意に「そうね。そのくらいならいいよ」と受けてしまうかもしれません。そして、何らかのお礼=キックバックを受けてしまうと、簡単にお金が入ることから、元に引き返せなくなります。気が付けばあらゆる場面で自分のほうからキックバックを要求するようになり、実際には取引先側に思うままにコントロールされ、自分の会社に大きな被害を与えてしまいます。そうすると犯罪者になってしまいます。

 残念なことに、コンプライアンスの重要性がこれだけ認識される21世紀になっても、良からぬ問題行為(キックバック)をしませんか、と声をかけてくる輩は一定数います。もし、そのような人に会った場合は、きっぱりとお断りするとともに、そのような依頼がもたらされたことを、すぐに上司や法務担当者に伝えましょう。しかるべき対応がとられるはずです。

どうやってバレるか

 さて、このようなキックバック。自分の会社では正当な取引として処理されて終了するので「バレない」と思う人が多いようですが、たいていバレます。バレるきっかけになる最大の契機が税務調査です。税務調査とは、税務署が会社にやってきて、会社が税金逃れのために、所得隠しのようなことをしていないかを調査することです。

 会社によっては税務調査を毎年、一般的には数年に1回、受けることになります。その際には、会社がどんな支出をしているかがバッチリと調べられます。そうすると、税務署員はプロであり場数を踏んでいるので、キックバックに使った不可思議な個人口座への支払いや、キックバックの資金の捻出のために架空の仕入れで経費が発生したように見せかける偽装工作などをいとも簡単に発見してしまいます。税務署はその取引をさらに詳しく調べるためにヒヤリングを行い、その経緯からあなたの会社に対しても問い合わせがなされることがあり、キックバックで会社に損害を与えていたことが明白になってしまいます。

どんなことに留意すべきか

 巨額な横領や背任事件も、わずかな金額や小さな接待のようなところから始まり、この繰り返しがだんだんエスカレートしていくという傾向があります。キックバックも同様です。最初は小さなものであっても、いつのまにか弾みがつき、長期にわたる習慣となって発覚したときには巨額になっていることが通常です。

 自分が発注担当者になったら、常に会社のルールをしっかりと守ることに気をつけるとともに、取引先と不適切な関係にならないように気をつけましょう。キックバックについては、取引先から「他社でもやっている」「業界の慣行として受け入れられている」といった“正当化”をされた言葉がささやかれ、とくに問題行為であるという意識のないまま会社に損害を与えてしまう可能性があります。むしろ相手がそういった正当化の発言をするときには、まず問題行為が含まれていると考えて間違いありません。過去は業界慣行として許容されてきたことが、現在では違法とみなされる可能性もあるので、注意が必要です。

※監修 浅見隆行弁護士(アサミ経営法律事務所)