消費者庁は、大手回転ずしチェーンが宣伝していた期間限定のすしを実際には販売しなかったのは「おとり広告」に該当するとして、運営会社に対して景品表示法に基づく措置命令を出した。今回は、おとり広告のコンプライアンス問題を考えてみよう。
(写真:123RF)
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 会社員ならだれでも、「コンプライアンスは大事」と考えている(と思う)。しかしながら、そう思っていたとしても、危ない橋を渡りそうになることがある。今回はその典型的な例、すなわち「損失と違法のせめぎ合い」を紹介したいと思う。

 以下は、宣伝部と営業部の同期の課長の会話である。

佐藤宣伝課長 プロモーション案はもうバッチリ決まったし、タレントさんも確保した。ポスターも販促グッズもしっかりとスケジュールに乗っている。今回は久しぶりになかなか良い手応えだ。ところで営業は売り込みの体制はしっかりとできてるの?

田中営業課長 うん。うちもバッチリだ。今回の商材で弾みをつけない限り、今年の目標もいかないし、会社の将来も先細りだからな。頑張るよ。

佐藤 それは素晴らしい。

田中 先行したテスト販売の結果もご存じのとおり好調だし、今までにない手応えを感じている。

佐藤 久しぶりに期待できるな。

田中 うん。

佐藤 あとは製造のほうか。

田中 そう、そこでちょっと心配ごとがあるんだ。

佐藤 なに?

田中 実は原材料の調達がうまくいっていないらしく、ブツができない可能性があると……。

佐藤 え、マジ?

田中 折からの地政学的な問題で原材料の供給量が激減していて、さらには新興国の需要も増えて、おまけにコンテナが不足して運ぶ手段が確保できず、さらに悪いことに数年に一度必ず起こるのだけれども現地の港湾で働く人がストを起こしている。

佐藤 なんと。必要な量を買えてないうえに、買ってもブツが来ない、ということか。ただ、この製品はもうずっと前から計画していて、原材料を確保する時間はたっぷりとあったはずだ。

田中 まあ、それはそうだけども……。しかし、昨今の環境は激変だからな。同情する余地はいくらでもあるよ。

佐藤 確かに。でも、これで原材料が十分に確保できなければどうなるの?

田中 それは、確保できた分を作って売るしかないだろう。たとえ予定の5分の1くらいでも。

佐藤 ん? となると、テレビCMとかネットでバンバン宣伝しても、売る商品があまりないってこと?

田中 ということになるね。

佐藤 それなら、プロモーションを中止しなくてはいけない。

田中 え? そこまで気にしなくてもいいんじゃないの。広告を見てお客さんがお店に来たら、「もう売り切れました」ということにして、別のものを売ればいいんだし。とにかく、お店に来てもらえさえすればどうにかなるだろ。

佐藤 いや、それはまずい。それは「おとり広告」という景品表示法の違法行為になる可能性が高い。

田中 あ、そうか。でも、これ今からストップしたら営業部は困る。来客数が増えないと、目標も絶対にいかなくなってしまう。

佐藤 うーん。どうしよう。もういろいろと発注してしまったから、ここでプロモーションをやめても、多額の費用がかかるのは止められない。

田中 そうだろう。いまから止めるのは割にあわないよ。

佐藤 でも、今の企画をそのままやったら、違法行為になる可能性がきわめて高い。

田中 そこをどうにか表現を工夫して乗り切ってもらって……。

佐藤 そう簡単に言うな。推す商品を変えるとしたら企画そのものが全面変更だ。プロモーションを一からやり直すのは大変だし、コストもかかる。かといって、今の内容をそのまま放送したら、お客様が怒ってネットで炎上し、消費者庁から措置命令かなんか出されて、会社のブランドが崩壊する。

田中 消費者庁になんか言われたからといって、そんな大きな問題になるかな?

佐藤 バカだなあ、確実になる。これは、かなりまずい。ところでこの件、役員たちは知っているのかな?

田中 この話はさっき調達部の同期から聞いたところだ。役員たちが知っているかどうかまではわからない。

佐藤 うちは、とりあえず部長に相談してみるよ。すぐに対応策を作っておかないと間に合わない。

田中 うん、でも、もう一度聞くけどもこれそんな大きな話かな? うまいことやればいいじゃん。役員も気にしないと思うよ。

佐藤 君ねー……。これはしっかりと対応しないといけない。最後は経営陣の判断になると思うけども。

田中 うちの会社がちょっと何かやらかしたくらいで、社会的な問題になんかならないよ。そんなたいした会社じゃないし。役員だってそう判断するだろう。

佐藤 ……。