バイタルデータの分析が“秘めたる思い”も暴き出す

 「Cさんは、スキルレベル、思考レベル、行動レベル、価値観レベル、モチベーションレベル、ほとんど満点なのに、なんで最適任者になってないのだろう。おや、なんと上司適合性が低いとある」

 「Cさんの上司といえば・・・」

 「あの二人、そういう関係なんですか」

 「ああ。きっとそうだ。O2はそうとは明言してないけど」

 O2は、社員の心拍数や血圧などのバイタルデータも把握している。社員の疲労度や精神の高揚度を把握し、健康管理に役立てることが目的で、実際に大きな成果が出ているのだが、違う使い方がされることがあると言われている。人と人とが“特別な関係”であると想定され、それが業務上、問題になりそうな場合は、それを明示することはないものの、人材の配置やプロジェクトのメンバー設定の際に上手に問題発生を避けさせようとするのである。

 「Dさんも、基本的には全て適合率が高いのに、何が問題なのかな?」

 「O2によると、Dさんは情緒安定性に不安があるようだ。メール、ウェブ会議など社内業務における問題点はほぼないのだけども、外部において彼の名前で発信しているSNSや、99%超の確率で彼の裏アカウントとみられる投稿には、異常な攻撃性が見られるとのことだ。O2は『この攻撃性は、場合によっては大きな成果に結びつく原動力となる可能性がある』とも言っているが、最終的には『本業務は多方面にわたる慎重さや確実さも要求されるため、Dさんに任せるのは、リスクが高い』と判断している」

 O2は、外部情報もスクリーニングしており、社内情報とマージして人の適性を判断することができる。入社の際に「外部の情報も利用しますよ」と一応承諾は取ってあるので、これらの利用が直ちに問題になることはないが、いまや社員の生活のすべてがO2によって把握されているといっても過言ではない。

 「そして最終的にO2が推薦しているのはEさんか。Eさんって目立たないし、ほんとに仕事ができる人なの?」

 「構文解析や語彙力から見た知性と思考レベルはおそろしく高いね」

 「発達段階もこの若さですでに5段階まで来ていて、人間関係構築力も相当に高い」

 「心理的資産としての、Hope(期待)、Efficacy(効果)、Resilience(回復力)、Optimism(楽観)は全て高いよ」

 「なんでこんなすごい人、今までピックアップされてなかったの?」

 「Eさん、大学中退だからかな。いるんだよね。賢過ぎて学校のお勉強なんか真面目にやってられない人」

 「それに今やっている仕事は、安定性が高く、挑戦性も低く、それほどの知性が必要とされない仕事だからだよ。とんでもない宝の持ち腐れをしていたわけだな、当社は」

 「ここまで説得力のあるデータで示されれば、このポストはEさんで決まりでいいですか?」

 「はい。(全員)」

 「O2はやっぱりすごいな」

 これは架空の話である。しかし、仕事内容の定義(内容、目標、性質、状況、予算サイズなど)と既存メンバーの情報(個々人の能力、スキル、行動・思考様式、価値観、信条など)、メンバー間の関係性の定義などが把握でき、また実際に行ったマッチング結果のフィードバックが行われて精度が上がれば、将来、O2のようなすごいツールが出現することは夢ではないし、十分に可能性はあるだろう。

 問題は、会社が広範な個人情報をどこまで生産性向上のために使用してよいかということである。