マーケティングと同様に人事データを活用していいのか

 情報活用によって、健康管理やモチベーションの向上、仕事と担当者のマッチングの改善、上司と部下の不適合の減少などポジティブなことがたくさん起こると予測される。それによって、現在、会社の最大の問題の一つでもある社員のストレスの大幅な低下が期待できる。これらのポジティブな面は、実は、かつて敏腕人事部長が頭の中でやってきたことを、ツールが大規模かつ包括的に実施しているに過ぎないともいえる。ビッグブラザーではなく、グッドファーザーであれば良いじゃないかという話である。

 他方で、様々な問題も明らかになってくる。上記の例でいえば、個人間の特別な関係なども明らかになるかもしれない。個人が会社とは関係のないところで表明している政治的発言なども、場合によっては会社の業務との関係において制限されるような可能性もある。どこまで会社が個人に干渉してよいのかという線引きの問題が重要になるだろう。

 昭和や平成の前期から人事に携わっている人たちは、個人のデータについてあまり細かく分析しすぎると人権侵害になりかねないと懸念し、一定以上は深堀しないでおこうという意識が強く、実際にそうしてきた。一方、最近技術の世界から人事(HR)分野に入ってきた人からすると、現在のHRの世界は、まったく分析が進んでいない“未開の大地”のように見えるはずであり、実際に、それらの人たちによるイノベーションが進んでいる。そして、この勢いは止まらないだろう。

 しかし、ちょっと立ち止まって考えたほうがいい。2019年に「リクナビ」が不適切な商品の販売によって、個人情報保護委員会から是正勧告を受けた。マーケティングや販売促進系のビジネスであればごく当たり前にやっている分析を、求人の世界に応用して適用した結果、社会的に問題として指弾されたものである。やはりHR領域の個人情報の利用については、他の分野よりも慎重にならざるを得ないと思う。

 行き過ぎてしまってからでは遅い。技術の活用により得られるものと、失うもの、これらについて、冷静かつ理性的な議論を進めていくことが、これからのHR領域における最大のイシューとなろう。私は個人的に技術の発展に大きな期待を寄せている。だからこそ慎重かつ着実な進展を期待したいのである。

 次回からは、個別の具体例をもとに、人と組織×コンプライアンス問題のケースについて、語っていくことにしたい。