高齢者などを狙った高額商品の不正販売が社会問題になることも少なくない。防止のルールを定めても、その網をかいくぐって詐欺まがいの手口が駆使される。不正行為を防ぐために人事部門ができること、やるべきことは何か。
(写真:123RF、画像はイメージです)

 前回は架空のケーススタディで近未来のプライバシーについて考えた。今回からは私の経験をベースにしたケースを使って、コンプライアンスの問題について、法的側面だけでなく、組織と人事の側面を中心に解説していきたい。

 今回取り上げるのは不正販売の事例だ。金融商品や健康食品、住宅機器など高額商品の販売において、詐欺まがいの手口で顧客に不利益を与える事例が後を絶たない。こうした中には「会社としては不正な販売行為を防止するためのルールを定めていたが、現場が暴走して問題を起こした」と経営者が弁明するようなケースもある。不正行為を禁止するルールを定めれば、企業としての責任を果たしたことになると言えるのだろうか。

 A社はこれまで安定した顧客基盤に支えられ高い業績をあげてきた。とくに高齢の顧客からの信頼が厚く、営業担当に「あなたが薦めてくれるものならなんでも買うよ」と言って本当に買ってくれる人も少なくない。しかし、社会の変化や不景気には勝てず、最近は売り上げがどんどん減少してきている。

 そこで今期は、既存の会員サービスとは別の、新しい会員サービスの販売に力を入れることになった。そして「新規会員の獲得」のノルマを達成した者には、普段の数倍の報奨金が個人に払われるという。ただ、既存サービスの会員は会員として守りたいので、以下のようなルールが定められた。

1.既存サービスの会員に追加で新サービスにも加入してもらった場合:
新サービスの契約後、3カ月以内に既存サービスの会員を解約した場合は、新規顧客とはみなされず、数字はカウントされない
2.既存サービスの会員が、既存サービスを解約して新サービスの会員になった場合:
既存サービスの解約後3カ月以上の期間が空いていないと、新サービスの新規顧客とは見なされず、数字はカウントされない

 営業部の課長が力説する。

課長 「ルールは今言ったとおりだ。とにかく新規受注が大事だ。報奨金は大きいが、逆に言うと、新規を増やせない課はお取りつぶしになるかもしれない。そしたらみんな左遷だ。全員、何が何でもノルマを達成するように」

課員「分かりました」

 課会のあと、ベテラン営業マンの田中さんが課長のところによってきた。

田中「課長、これ、ちょっとまずいような気がしますけども」
課長「ん?」
田中「既にレッドオーシャン(競争が厳しく低成長な状態)なうちの業界で、今から新規顧客をこんなに獲得するなんて、普通は無理でしょう」
課長「まあ、それはそうだけど、そこをどうにかするのが営業というものだ」
田中「課長もこれが無茶な目標であることは、当然お分かりですよね。それでも新規受注のノルマは何が何でも達成せよという上からのお達しなわけですよね」
課長「そうだ」

 田中さんはため息をついた。

田中「それであれば我々営業担当者の考えることは、まあ、決まっているというか」
課長「何がいいたいんだ?」

田中「営業なら、だれでも2つの方策をすぐ思いつくはずです。

1.既存サービスのお客様に、新規サービスにも入ってもらい、既存のほうを3カ月+1日目に解約する。この場合、3カ月間はダブルで会員費を請求しますが、もっともらしい理由をつけてごまかします。自分で会費を負担するかもしれません。

2.既存サービスのお客様に今のサービスを解約させ、3カ月+1日目に新サービスに加入させる。3カ月間は会員ではない状態になるので、もしバレたら、事務上のミスだとか言って言い逃れます」

課長「……」

田中「この高いノルマを達成するためには、誰でも考えますよね。こういう営業はNGですか?」
課長「うーん、会社が決めたルールに違反しているわけではないな。それに、何を選ぶかはお客様が決めることだろ」
田中「うちのお客様、特に高齢の方の多くは、中味を聞かないでこちらの言う通りにハンコを押しちゃいますよ」
課長「これまでの信用の蓄積の結果だ」

田中「今回は下手したら、すべての社会的信用を失ってしまいます」
課長「だからこそ、お客様にお選びいただくことが必要だ」
田中「お客様が選ぶのであればよいですよね」
課長「そうだ」
田中「ハンコを押すのはお客様ですし」
課長「そうだ」

田中「ということは、GOってことですよね」

課長「俺に聞くな。そんなことは知らん。それぞれの担当者の営業手法の問題だ」
田中「はい。わかりました。それにしても本部はよくこんなアホなルール作りましたね」
課長「現場を知らん奴らが考えると、こうなるということだ」

 このケースを読んで、皆さんの頭の中にはどんなことが浮かんだだろうか?